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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

今こそ築古マンションが売り時、値引きゼロで売却も…成約価格が売出し価格を上回る

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
今こそ築古マンションが売り時、値引きゼロで売却も…成約価格が売出し価格を上回るの画像1
「gettyimages」より

 通常、中古マンション住宅市場では、仲介会社を通して売主と買主が交渉、新規登録価格(売出し価格)から若干の値引きが行われて契約が成立するものです。それが、東日本不動産流通機構の調査によると、首都圏中古マンション市場ではこのところ新規登録価格の平均より成約価格の平均のほうが高い状態が続いています。どうしてなのでしょうか。

新規登録価格のほうが1割近くも高くなっている

 まずは、図表1をご覧ください。これは、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)による、首都圏中古マンション市場における新規登録価格(売出し価格)と、成約価格の平均を示しています。2013年度までは新規登録価格のほうが若干高くなっていますが、2014年度には成約価格が新規登録価格を上回るようになり、その後2022年度まで成約価格のほうが高い状態が続いているのです。

 2022年度の価格をみると、新規登録価格の平均が4058万円で、成約価格の平均が4343万円ですから、成約価格のほうが新規登録価格より7.0%高くなっています。平均値でみる限り、売出し価格より成約価格のほうが高いという奇妙な状態が続いていることになるのです。マンション価格が上がり続けていますから、5000万円で売りに出しても、5500万円で売れることがあるのかという気になってしまいますが、もちろん、そんなことはよほどの例外でなければ起こり得ません。こんな奇妙な現象には理由があるので、くれぐれも「売出し価格より高く売れる」などと思い込まないようにしてください。

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 sf_202204-202303.pdf (reins.or.jp)

平方メートル単価をみると新規登録価格のほうが高くなる

 実際、新規登録価格と成約価格を1平方メートル単価に戻してみると、図表2のようになり、新規登録価格のほうが高く、成約価格はそれより低い水準で推移していることが分かります。つまり、売出し価格に基づいて売主と買主が交渉、一定の値引きを行った上で契約が成約していることになります。2022年度でみると、新規登録価格が72.59万円で、成約価格が68.55万円なので、成約価格は新規登録価格より5.6%ほど低くなっています。条件が悪い物件だと、値引き幅がそれ以上になることがあるでしょうし、反対に状態の良い物件ならほとんど値引きなしで交渉が成立ケースもあるでしょう。ですから、あくまでも平均値ということではありますが、売出し価格から5%、6%ほど低い水準で契約が成立しているケースが多いということではないでしょうか。

 この新規登録価格と成約価格の差は、中古住宅市場の環境によって異なります。市場が活況を呈しているときには、その差が小さくなり、市場が芳しくないときにはその差が大きくなるものです。2022年度は活況を呈しているので、その差が小さくなっているとはいえ、やはり一定の値引きが行われていると考えるべきでしょう。

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sf_202204-202303.pdf (reins.or.jp)

築年数が長くなると成約価格が格段に安くなる

 にもかかわらず、新規登録価格と成約価格の平均値をみた場合に逆転現象が生じている要因としては、いくつかの点が考えられます。第一には、市場が過熱化しており、値引き幅が極端に小さくなっている物件や、値引きなしで売れる物件が増えていることなどが要因になっていると点が挙げられます。実際、新築物件の供給が少ないエリアでは、かつての新築物件の相場価格より高値で取引される中古マンションが少なくありません。中古マンション相場のベースが底上げされているといっていいでしょう。

 第二の要因としては、新規登録物件と成約物件との間には、築年数の違いが大きい点が挙げられます。図表3にあるように、2022年度の実績でみると、新規登録物件の平均築年数は28.46年で、成約物件の平均は23.48年でした。新規登録物件は毎年半年から1年程度、築年数が長くなっていますが、成約物件はさほどでもなく、買主はできるだけ築年数が短く、状態の良い物件を求める傾向が強いことが分かります。

 東日本レインズの「首都圏中古マンション・中古戸建住宅地域別・築年数帯別成約状況(2023年1月~3月)」をみると、首都圏の中古マンションの成約物件の平均価格は、「築21年~25年」は4648万円に対して、「築26年~30年」は3374万円と1000万円以上の違いがあります。さらに、築30年超では2318万円と一段と安くなるのです。この築年数の違いが、新規登録価格と成約価格の差の大きな要因になっているわけです。

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新規登録と成約の専有面積は一部屋分の違いが

 築年数が違っていると同時に、専有面積にもけっこうな差がある点も価格の違いに影響しています。図表4にあるように、2022年度の平均専有面積をみると、新規登録物件は55.91平方メートルに対して、成約物件は63.36平方メートルと7.45平方メートルの差があります。1畳を1.62平方メートルとすれば、新規登録と成約物件の間には4.6畳と、小さな居室1部屋分の違いがあるわけです。1平方メートルを70万円とすれば、522万円ほどの価格差につながります。それが、新規登録と成約物件の価格差に大きく影響しているのは間違いありません。

 不動産経済研究所によると、2023年5月の新築マンションの専有面積の平均は66.87平方メートルで、このところは60平方メートル台の後半で推移しています。ファミリータイプが中心の物件や、富裕層向けの高額物件では平均70平方メートル台、80平方メートル台という物件も珍しくありません。

 それに対して、東日本レインズによると、「~築5年」の中古マンションの専有面積の平均は62.1平方メートルで、「~築10年」は66.6平方メートル、「~築15年」は67.6平方メートル、「~築20年」は69.9平方メートル、「~築25年」は70.9平方メートルと広くなりますが、「~築30年」は65.0平方メートル、「築30年~」が56.3平方メートルと狭くなってしまいます。 

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築古マンションは専有面積が狭くなる傾向

 分譲マンションの歴史をさかのぼってみると、1960年代、1970年代の新築マンションにおいては、現在の70平方メートル前後の3LDKのファミリータイプではなく、50平方メートル台、60平方メートル台の2DKタイプが中心でした。仲介市場においては、そうした築年数の長い物件も少なくないので、どうしても平均の専有面積が狭くなってしまいます。そのため、新規登録物件の平均専有面積は55平方メートル台と狭めになり、その分、新規登録価格の平均も安くなります。

 それに対して、買主はより広めのマンションを求める傾向が強いので、築年数が30年を超えるような狭い物件ではなく、新築マンション並みに60平方メートル台後半や70平方メートル前後のマンションを求める傾向が強いのではないでしょうか。その結果、新規登録価格と成約価格に大きな差が出て、成約価格の平均のほうが高くなるといった逆転現象の要因になっていると考えられます。

値引き交渉しにくい「超売り手市場」になっている

 直近の動向をみると、新規登録価格と成約価格の1平方メートル単価は限りなく近くなっています。図表5にあるように、2023年6月の新規登録価格の単価は72.69万円に対して、成約価格の単価は72.27万円で、その差は0.6%に縮小しています。平均値とはいえ、ほとんど値引き交渉なしで契約が成立している物件が多くなっていると推測されます。売り手優位の完全な「超売り手市場」ということができます。手持ち物件を売るなら最高の環境です。この環境であれば、売却には不利になるとみられる築年数の長い物件、専有面積の狭い物件でもより有利な条件で売れるかもしれません。売却を考えている人は、そろそろ実行に移したほうがのではないないでしょうか。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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