判決を報じる8月31日付日経新聞。
さまざまなテレビ番組や雑誌などでもお馴染みの購買/調達コンサルタント・坂口孝則。いま、大手中小問わず企業から引く手あまたのコスト削減のプロが、アイドル、牛丼から最新の企業動向まで、硬軟問わずあの「儲けのカラクリ」を暴露! そこにはある共通点が見えてくる!?
●サムスンのアップル決別宣言
10月22日。これまでアップルに液晶を供給してきたサムスンが、アップルと決別すると報じられた。The Korea Timesによると、サムスン(サムスンディスプレイ)は、これ以上アップルのディスプレイ価格についてコスト削減要求(huge price discounts)をのむことはできず、供給を停止していくという。また、アップルとのビジネスがなくなったとしても、キンドルや自社商品によって代替できるという(the right alternatives)。しかし、この報道について、米CNETは誤報であると匿名サムスン幹部のコメントを伝えており、現時点では本当のことはわからない。
ただし、関係者からすると「予想できた」事態ともいえる。各国でのサムスン対アップルの訴訟合戦は広く知られている。グーグル対アップルの代理戦争ともいわれるこの闘いは、次世代のスマートフォン覇者を決める争いとして注目された。これまで、サムスンとアップルは表面上「敵」であるものの、部品供給の面では「パートナー」でもあった。同じくThe Korea Timesによると、この半年でサムスンディスプレイはアップルに1500万枚ものディスプレイを供給している。
しかし、「敵」と「パートナー」を使い分ける高度な二重構造も、訴訟合戦の前には変化を余儀なくされた。これまでiPhoneシリーズで使われていたサムスン部品類の多くは、他社製へと切り替わった。iPhone 5で、液晶はサムスンの供給意思にかかわらず、シャープ等に代替されたし、メモリーやDRAMなども同様だ。
サムスンは、他のアップル製品に、まだ多くの部品類を供給している。ただし、これからもアップルのサムスン外しは考えられる。それならば、こちらから決別宣言をしてしまえ……とサムスンが考えてもおかしくない。そこで飛び込んできたのが、サムスンディスプレイの「アップルへ供給しない宣言」だった。冷静に見れば、まだサムスンが本当に決別を考えているかはわからない。ただし、関係者にとっては「いよいよ全面戦争の始まりか」と思わせるに十分だった。
●サムスンかアップルか、部品メーカーの選択
商品のサプライチェーンは複雑化している。現在ではさまざまなメーカーの部品が、複雑に絡み合って一つの商品をつくり上げる。よって、部品メーカーにとって「サムスンにつくか」「アップルにつくか」という二項対立は正確ではない。
しかし、ここでは単純な図式で見ていこう。
サムスンディスプレイのアップル供給問題を考えると、その背後のメーカーの思惑も予想できる。近いうちにサムスンがアップルへの液晶供給メーカーであることをやめるとしたら、そのビジネスを獲得する者が次の勝者となる。そう考えたのが鴻海(ホンハイ)だったのだろう。鴻海はフォクスコンを有する台湾企業グループだ。フォクスコンではiPhoneの組立を請け負っているものの、その請負価格は一台当たりたったの数ドルといわれる。台数が多いために売上は上がるものの、薄利多売。きっと、郭台銘氏(鴻海CEO)は苦虫を噛み潰していたことだろう。iPhoneに付加価値の高い部品類を供給することはできないか……。
そこで出てきたのが、サムスンディスプレイとアップルの不協和音だった。すぐさま郭台銘氏は経営不振が伝えられていたシャープとの資本提携に走ったのだろう。シャープを援助し、同社の液晶技術力を傘下に収めていくことで、形勢逆転を図ることができるからだ。
サムスンは自社技術でディスプレイを有しているのに対し、よく知られている通りアップルは自社工場すらない。アップルにしても、サムスンなきあとのディスプレイ供給に不安を感じていたことも考えられる。とするならば、シャープと鴻海の連携は、サムスン対アップル、いや、グーグル対アップルの大きな構図の中の一端を担っている。