自民党が大きく動いている。総裁選が9月17日告示、29日投開票の日程で行われることになり、その前に党役員人事が刷新されることになった。
最大の目玉は、通算在職日数が5年を超え、歴代最長となっている二階俊博幹事長の交代。総裁選への出馬を表明した岸田文雄政調会長が、「権力の集中と惰性を防ぐ」として、党役員の任期を連続3年までとする改革案を出したことを受け、それに対抗するかたちで菅義偉首相がまさかの“二階幹事長外し”に踏み切った。
菅首相が二階氏を官邸に呼び、交代を告げた時、二階氏は「遠慮せずに人事を行ってもらいたい」と応えて、すんなり容認したと伝えられているが、永田町では「二階さんは、人事と金を握る幹事長ポストに並々ならぬ執着があった。簡単に引き下がるわけがない。なんらかの裏約束があるだろう」というのがもっぱら。
では、それはいったい何なのか。永田町でのさまざまな見方を総合すると、囁かれているのは次の5つの理由だ。
(1)自分の次のポスト
安倍晋三前首相も何度か二階氏を幹事長から外そうと試みたことがあった。その際、副総裁のポストを提示し、「ある程度の自由に使える党のお金を副総裁枠として与える」というオプションをつけたといわれている。今回も同じような提案が想定される。
(2)息子の処遇
二階氏は選挙区の衆議院和歌山3区の地盤を、秘書をしている三男に譲りたいと希望している。しかし、同選挙区へは世耕弘成参院議員も鞍替え出馬を狙っている。三男の後継と公認の確約がなされたのではないか。
(3)党四役人事への関与
幹事長を辞めるのだから、後任の人選には絡ませろ、ということ。対立している安倍氏や麻生太郎財務相に近い人物が幹事長や選挙対策委員長に就くことを阻止する狙い。
(4)健康問題
これは「裏約束」とは少し異なるが、二階氏は齢82歳。そろそろ体力的な限界を感じていてもおかしくない。これまでも「記者会見で記者とのやりとりが嚙み合っていなかった」など健康面で不安視する声が出ていた。幹事長は激務で、直近に衆議院選挙も迫っている。
(5)菅首相の二階派入り
二階派は所属議員47人で党内第4派閥。人数はそれなりだが、派閥領袖の後継者がいないのが悩みの種。83歳の伊吹文明元衆議院議長は今期限りの政界引退を表明している。河村建夫元官房長官は、参議院議員を辞職して衆議院山口3区での鞍替え出馬を表明した林芳正元文科相と公認争いなかでもあり、インパクトが弱く、領袖というタイプでもない。
「将来的に二階派を継ぐのは、武田良太総務相でしょう。しかし、本人はその気で準備をしていますが、まだ53歳で年齢的には早い。そこで、ワンポイントとして、菅首相にやってもらい、いったん『菅派』になるというウルトラCがあり得る。一時、二階派と無派閥の菅グループの合流話があった。双方を合わせると、所属議員は90人以上となり、最大派閥の細田派(96人)に迫る規模になれる」(自民党関係者)
裏約束が何だったのか。今後の政局の行方を見ていれば、それが見えてくるかもしれない。
(文=編集部)
※本稿は菅首相が「総裁選に出ない」意向を固める前の9月1日に掲載された原稿です。近日中に最新情勢をお伝えする予定です。