フィンランドといえば何を思い浮かべるだろうか。ムーミン? それとも映画の『かもめ食堂』? もしかしたら福祉や教育のシステムがすぐれている点を挙げる人もいるかもしれない。いずれにせよ、フィンランドに対して好意的なイメージを持つ人は多いだろう。
しかし、実態を見てみるとフィンランドにも問題は山積みだ。
『国家がよみがえるとき 持たざる国であるフィンランドが何度も再生できた理由』(マガジンハウス/刊)で、社会学者の古市憲寿氏がフィンランド出身の研究者であるトゥーッカ・トイボネン氏の協力を得て、この国の知られざる一面を明らかにしている。
■教育で注目を浴びるフィンランド、でも…?
2001年のPISA調査(OECDが実施する、各国で15歳の生徒を対象に学習到達度を測るテスト)で世界トップになって以来、フィンランドの教育制度は世界から注目を集めている。
しかし、本書を読むとどうやらこの国に起きているのは「いいこと」ばかりではないらしいことが分かってくる。古市氏は「子どもと若者の視点から見たフィンランドは矛盾だらけの国」だそうだ。
先にも書いたように、フィンランドは国際教育比較では最高の評価を受ける一方で、他の先進国と比べて子どもの学校における居心地や福祉のレベルが高くないという。
実際、ユニセフが行った比較調査で、フィンランドの子どもたちは物質的福祉(3位)、教育(4位)などと上位の格付けを得ている一方、個人的福祉(11位)や家族および友人関係(17位)といった項目では低い順位となっている。また、14歳から16歳までの若者の10人に1人以上が中度~高度のうつ病に悩まされているという調査結果もある。
このような状況を生んでいる原因を特定することは難しい。ただ2000年以降、フィンランドが競争社会に転じたことと無関係ではないだろう。
あらゆる領域の仕事で効率性や成果が重視されるようになり、社会における競争の激化による「行きすぎた成果主義」が、若者を隔離や孤立へ追い込んだのではないかと本書では分析している。そして、社会の変化に応える形で、教育の現場でも「優秀さ」「効率性」「生産性」が重視されるようになったのだ。
このように経営的思考に根ざした教育政策のもと、短期的な成果ばかりが求められるようになり、若者のあいだで勝ち組と負け組の二極化が進んだ。
2008年時点で、フィンランドには15~29歳で約3万2000人のニートがいる。そして、敗者となってしまった若者が犯行に手を染めてしまう点が見逃せない。フィンランドでは、2002年にミュールマキのショッピングセンターで爆弾事件、2007年にヨケラ、2008年にカウハヨキで学校襲撃事件が発生している。これら3つの事件で合計26人の命が犠牲になっている。
本書によれば、現在のフィンランドにおいて「若者の大半はかつてないほどうまくいっているにもかかわらず、わずかなお金で生活する若者たちも増加の一途にある」。
若者問題にかぎらず、フィンランドが抱える闇にかなり斬りこんでいる本書を読めば、この国の実態が浮かび上がってくることだろう。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。