なぜその日本人は、米国で自転車屋を起こし大成功できた?
●「製品が良ければ売れる」という発想を捨てる
では、なぜ彼らは成功したのだろうか?
この点について後藤氏は、「市場が望む製品、顧客が求める商品、憧れるモノを供給することこそが大切です」と述べる。さらに、「『製品が良ければ売れるはず』的な考えを捨てることこそが、成功の秘訣」だと言う。実際彼らの扱う商品は、多様なラインナップが特徴。どんなに良い商品/有名ブランドでも、「格好良くない」となればそれは扱わない。無名のメーカーでも、それが「クール!」思えばもちろん扱う。そして何より「実際に店にやってくるお客さんたちからの情報収集が一番です。これがなければやっていけない。だからこそ、小さいとはいえ店舗が必要だったのです」(同)という。
仕入れて売るだけならオンラインショップで済む話だが、チャリ&コーでは実店舗が販売窓口としてだけではなく、情報の収集と発信の拠点として位置づけられているのである。そのため、「ニューヨークから発信しているということは大きいと思います。結果として世界中にチャリ&コーのファンが広がることとなりました。これが日本国内からの発信であったり、米国でも他の小さな街からでは、こうはならなかったと思います」と、ニューヨークという街の優位性も指摘する。
一方、ショップ開店当初から、オンラインストアの充実には力を入れたという。米国内はもちろん、言語の違う国々からでも簡単に注文ができるよう、分かりやすい商品説明や見やすい画像の配置など、細かな点に配慮。購買に際しての高揚感を維持してもらうために、遠方への発送に時間がかかりすぎないようにしている。商品に対する質問やクレームなどへは、可能な限り誠実に対応する。つまり、いかにも日本的な顧客への配慮が至る所に見られる。
●直感+綿密なひらめき
このように、彼らの成功は綿密な戦略と計画の上になし得たものであり、直感やひらめき、運やタイミングだけでたまたま手にしたわけではない。
個人の資質を存分に発揮して成功を手にしたチャリ&コーだが、彼ら同様、成功を手にするための市場は、多数散見することができる。
例えば、ニューヨークには世界中から人々が集まっているため、それぞれの民族衣装を飾る店舗は珍しくはない。しかし、着物が飾られているのを筆者は見たことがない。インドのサリーや中国のチャイナドレス、ベトナムのアオザイに見入ってしまうショールームは少なくはないが、着物や浴衣を見ることはかなわないのである。ほかにも、ケバブ屋やカレー屋は多いが、たこ焼きや焼きそばを道ばたで購入することは困難。
つまり、日本のモノ/サービスを米国で展開するという面では、まだまだ手つかずの市場が存在する。ビジネスのネタは、ニューヨークだけでも無尽蔵に転がっているのである。
(文=田中秀憲/NYCOARA,Inc.代表)
●田中秀憲(たなか・ひでのり):NYCOARA,Inc.代表
福岡県出身。日本国内で広告代理店勤務の後、99年に渡米独立。04年、リサーチ/マーケティング会社、NYCOARA, Inc.を設立。官庁/行政/調査機関/広告代理店などのクライアントを多く持ち、各種調査や資料分析などを中心に、企画立案まで幅広い業務をこなす傍ら、各メディアにて寄稿記事を連載中。小泉内閣時代には、インターネット上での詐欺行為に関するレポートを政府機関に提出後、内閣審議会用資料として採用され、竹中経済産業大臣発表資料の一部となった。