「従業員満足度」を調査する会社がある。筆者自身も、過去に何度となく依頼を受けたことがある。従業員にアンケートを取り、「職場への満足度」「仕事への満足度」「評価への満足度」といった数値を取得し、マネジメントに対する改善ネタを提供するといったサービスである。
経営者はこのような「満足度調査」を行い、自社の弱点を補強し、それによって社員のパフォーマンスを高めるべく努力をしている。そのこと自体は賞賛されるべきものであるし、経営者が少しでも社員のパフォーマンスを上げようと努力するのは合理的でもある。
もちろん、従業員が満足している会社は、悪い会社ではないだろう。誰だってひどい会社では働きたくないし、職場の満足度が高い場所で働くほうが良いだろう。
(安達裕哉/日本実業出版社)
だが、転職、就職をする際は、この手の調査のデータはあまり信用しないほうがいい。特に「仕事をバリバリやりたい」という人や成長意欲旺盛な人は要注意だ。
なぜなら、現在のところ「従業員満足度」と「従業員の生産性」は関係がないという研究結果が数多くあるからだ。経営学者で東京大学教授である高橋伸夫氏は、著書『虚妄の成果主義』(日経BP社)で、数々の実験を紹介している。その中で特に興味深いのは、ミシガン大学の社会調査研究所の研究結果だ。
それによると、生産性の高い部署の会社に対する満足度は、生産性の低い部署のそれと変わらないという。むしろ生産性の高い部署で不満が大きいという結果もあった。ただし、職務満足は低い欠勤率と、低い離職率に結びついている。この結果は、一見すると感覚と異なる結果であるため、にわかには信じがたいのだが、再現性のある実験だ。
満足しないからこそ向上する
しかし、よく考えてみると、この実験の結果は合理的であることがわかる。たとえば、読者諸兄の職場で「一番仕事のできる人」想像してほしい。彼らは「職場と仕事に満足している」といえるだろうか。
「満足していると思う」という回答をされる人もいるだろうが、よく考えていただきたい。恐らく彼らは「どこまでがんばっても、決して現状に満足しない人々」ではないだろうか。
仕事における主要な原動力の一つは、「もっと成果を上げたい」「もっと品質を高めたい」「もっと顧客に満足してもらいたい」という飽くなき欲求である。すなわち、「満足している人が多い職場」というのは、半面「これ以上◯◯したい」という欲求が少ない、と見ることもできる。