あ、でも、芸大に行きたくて東京で浪人してた時期はいちばん暗かったかな。明治大学の近くにある名曲喫茶で3年半バイトしていたのですが、いろんな大学の学生がサークルお揃いのジャンパーとか着て歩いているんですよね。あれは羨ましかったなぁ。あと、野球がやりたくてしかたなかったのに、名門の星稜高校でビビって野球部に入らなかった……そのコンプレックスはずっとあります。芸大とスタジャン系サークルとハイレベルなアマ野球選手が僕の3大コンプレックスですね。それ以外は、全然ないです。
●キャンディーズに学んだこと
ーー本書の中でも語られていますが、お母さまが3人いたり、高2で夜逃げを経験したりと、波乱に富んだ子供時代、青春時代を過ごされていますよね。でも、石黒さんからは悲壮感のようなものが微塵も感じられません。
石黒 それでも、30歳で結婚するあたりまでは、あまり昔のことは公言しませんでしたよ。なぜ公言するようになったか? 正直、大した理由はないのだけど、いざしゃべるようになったら本当に気にならなくなってしまって。吹っ切った……というより、もともとさほどツラい記憶だと思っていなかったのかも。親がつくった借金が原因で家財道具が差し押さえられ、目の前に貼られた赤紙を見て、ショックも大きかったけど、どこかで「おもしれぇな」と思っている自分がいたのを覚えてるぐらいで……。
もし昔に戻れるなら、高校時代に戻りたいですもん。そのころ夜逃げとか、野球断念、ヤンキー系ワルさいろいろ(笑)とかあったけど、高校入学からキャンディーズ解散までの丸々2年間、コンサートに年100回行ってたんですよ。その記憶がものすごく楽しいんですよ。だから、ツラいこととか忘れてるんですよね。
ーーキャンディーズ、いまでも本当にお好きですよね。
石黒 はい。自分が「動く」人間になった原点だと思います。魚屋とか工事現場とかでバイトして、お金を貯めて、高1なのに全国各地へ応援しに行く……を繰り返していましたから。あの行動力は、後の自分の生き方にも大きく影響していますね。言ってしまえば、ただキャンディーズが好きで、応援したくて、それだけでバカみたいな行動力を発揮していたわけじゃないですか。でも、あの頃の経験は確実にいまの自分を形作っていますよ。見返りを求めないのが、なんと心地いいことかと。こんなプリミティブな感覚、せっかく人間として生まれてきたんだから味わわないと楽しめない!
ーー“人生で大切なことは、みんなキャンディーズに教わった”と。
石黒 ええ、本当に教わりました。あと、一緒に応援したファン仲間にもね。その時、その場をどれだけ楽しめるか。楽しめたもの勝ちだよな、と。こういう言い方をすると否定的に捉える人もいるのだけど、まず目の前にある状況を楽しめない人って、1年後もきっと楽しめないと思いますよ。
まあ、僕は快楽主義者なので、相いれない考え方の人がいるのもわかります。刹那的とも言えますからね。ただやはり、10年後の心配をしたところで、明日死ぬかもしれない。だったら、その場、その時を楽しんだほうがいいに決まってるじゃないかと。僕、わりと本気で「明日死ぬかも」と、いつも考えていますから。