岡部: 現地でのビジネスパートナー選びでしょうね。日本企業が海外で成功した例とそうでない例を見ると、安い資源、安い労働力だけを目当てに現地の企業と提携して海外展開したようなケースは長続きしていません。
現地に根を張って、自分たちのためにも、現地のためにもなる仕事ができて、ビジネスの目的を共有できるパートナーを選ぶことが大切です。
――パートナー探しを誤った時、どんなことが起こるのかということもお聞きしたいです。
岡部: トルコではビジネスパートナーで苦労した記憶があります。ある現地の有名な財閥をパートナーにしていたのですが、知っての通りトルコはヨーロッパへも近いですし、中央アジアへの輸出拠点にもなりますから、地理的に非常に重要な場所です。
向こうもそれがわかっていますから、もっと投資しろと言ってくる。ただ、トルコに工場を作って車を生産しても、そんなにたくさんは売れないんです。
ヨーロッパのメーカーなら、地理的に近いですからトルコまで部品を安く供給できますが、日本からトルコに部品を供給するとどうしても高くついてしまいます。そうなると、トルコで作った車をヨーロッパに輸出しようとしても価格競争力で難しいものがある。
こちらはそういった難しさがわかっているのですが、向こうとしては投資を促したいから、年間5万台しか売れないのに、10万台作れるような設備投資をしろと言ってくる。
結局、お金の話ばかりになってしまって、一緒にビジネスをするうえでの目標をなかなか共有できなかったんです。
――これまで70カ国以上でトヨタ車を根付かせる基盤を作ってこられた岡部さんですが、これまでに体験したことで最も衝撃を受けたのはどんなことですか?
岡部: テロ組織アルカイダのトップが、パキスタン・アフガニスタン一帯のどこかに潜伏していた頃、現地の自動車修理工場のサービス記録を入手してほしいという要請が政府筋から来たのには驚きました。
トップが乗って移動するような車であれば、常に最高の状態にメンテナンスしているはずだと仮定して、サービス記録を解析することで潜伏場所を突き止めようとしたわけです。ただ、現地の販売代理店のオーナーに協力をお願いしたら断られてしまった。
狭い社会ですから、情報が漏れたら誰が漏らしたかがすぐにバレてしまい、それは死を意味する。こういう現地の事情についてはまったく無知だったのでショックでしたね。
――世界中を飛び回って、「トヨタの開拓者」としてのお仕事をまっとうされました。様々な困難があったと思いますが、それらを克服するモチベーションになったものは何だったのでしょうか。
岡部: 異文化に触れて、知らないことや新しいことを体験すること自体がモチベーションです。特に、目の前の問題を解決したり、解決する手伝いをしたりするのはワクワクします。困難といっても辛いと思ったことはないですよ。