本来、投資家である株主が経営者を選ぶのが筋だ。企業が自らの事業計画を株主に説明し、株主はそれを吟味した上で経営者を選ぶ。会社法もそれを前提に定められているはずなのに、現実には株主は置き去りにされている。
「多くの企業は債権者である銀行の顔色は窺うものの、株主を重視する姿勢は見られなかった」と著者は述べている。
そんな日本的企業体質では、経営は杜撰になり「企業価値を最大化する」という目的を果たしようがなく、ひいては日本経済の成長を妨げる。
だからこそ村上氏は投資家として株主になり、企業の経営陣にさまざまな提言を行うことで企業を「あるべき姿」にしようと奮闘したのである。
これが「もの言う株主」と呼ばれるようになった所以でもある。
■「東京スタイル」と「ニッポン放送」への投資で目指したこと
村上氏が業界で注目を集めることになったきっかけが、婦人服メーカー「東京スタイル」に対して日本で初めての「プロキシー・ファイト(議決権争奪戦)」を仕掛けたことだ。
「プロキシー・ファイト」とは、株主が、経営陣や他の主張を持つ株主に対し、株主総会で自らの議案が議決されることを目指して他の株主に支持を訴え、議決権行使の委任状を集め、多数派工作をすることである。
著者によれば、「東京スタイル」は、「株主と向き合わず」「経営者が保身に走り」「株主価値を鑑みない」放漫経営の会社だったという。つまり、コーポレート・ガバナンスが一切ない、企業としての「あるべき姿」からもっとも乖離していた企業だったのである。
だからこそ、著者は「東京スタイル」の放漫経営を正すべく、投資を行い、プロキシー・ファイトを仕掛けたのだった。
また、世間を賑わせた「ニッポン放送」への投資も、「コーポレート・ガバナンス」と「企業のあるべき姿」を追求した上でのアクションだったという。
当時の「ニッポン放送」は、「おかしさ」を抱えた会社だったと著者は回想している。なぜなら、時価総額で大きく下回る「ニッポン放送」が、「フジテレビ」とそれにぶら下がる「産経新聞」の親会社になっていたからである。
この状態では割安な「ニッポン放送」の株式を取得すれば、「フジテレビ」と「産経新聞」まで手に入ってしまう。もし、特定の意図を持った人物が買収すれば、三大メディアが一気に乗っ取られてしまうリスクがあったのだ。
村上氏は株主の立場から、この資本関係の「おかしさ」を是正すべく投資に乗り出したのである。
だが、加熱する報道によって村上氏はまるで悪者のように扱われ、世間にその理念や思いが届くことはなかった。さらに追い打ちをかけるようにインサイダー取引疑惑が持ち上がり、世間的な評判はより一層悪くなった。
たびたびメディアで取り上げられた村上氏の世間一般のイメージは、「企業を乗っ取って我が物にしようとする悪人」「お金を貯めこんでいる守銭奴」といったものではないだろうか。そこまでではなくても、ポジティブなイメージを抱いている人は少ないはずだ。