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相原孝夫「仕事と会社の鉄則」

モンスター「役職定年」社員が職場を壊す? 映画『マイ・インターン』が理想の姿

文=相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント
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相次ぐトラブル

 肩書きがなくなり、年下の上司の下で一兵卒となった管理職経験者たちは、職場でさまざまな混乱を引き起こしている。経験値は十分であるにもかかわらず、不本意にも中途半端な立場に置かれてしまった50代社員たちは、身の処し方がわからずにいる。年下の上司に従わず、衝突するケースも多くある。

 また、管理職でないにもかかわらず、若手のメンバーに指示を出したり、育成しようとしたりするケースもある。実際に、役職定年となったベテラン社員である部下のいじめにあって、年下の上司がうつになってしまったという事象も発生している。そこまでいかなくとも、職場の雰囲気を壊し、チームの生産性を著しく低下させてしまうようなことはあちこちで起きているのだ。

 私自身、同世代ということもあり、他人事ではいられない。ビジネス人生の最終コーナーを回った後に、後進たちに迷惑をかけるようなことがあってはならない。これまで培ってきた知識や能力を正しい方向で活かすことを考えていかなければならないであろう。役職を解かれたといっても、年次的には組織の最上位に位置しているわけだから、こうした直面する諸々の状況に対して、頑なになることなく、あきらめもせずに、余裕を持って、穏やかに受け止めていくべきであろう。成熟した大人の所作を示すべき時ではないだろうか。

目指すべきイメージ

 映画『マイ・インターン』でロバート・デ・ニーロが演じる主人公のベンの所作はまさにそれだ。ベンは、シニア・インターンとしてファッションの通販サイトを運営する会社に採用された70歳の人物なので、日本で言えば団塊の世代より前の世代となり、バブル世代とはだいぶ離れてはいるが、学ぶことは実に多い。目指すべきイメージとしてはたいへんに近いのだ。

 まず、ベンは誰に対しても穏やかに、丁寧に接する。いつもニコニコと微笑んでもいる。それから、とてもきちんとしている。身だしなみにも気を配っており、カバンの中身も、デスク周りもきちんと整理されている。生活のリズムも規則正しい。また、ユーモアがあり、愛嬌もある。そして何よりも、謙虚であり、誰に対してもリスペクトの心を持っている。年下の者からも学ぶ姿勢がある。

 そうしたベンに、アン・ハサウェイが演じる、その会社の社長で、世間からも注目を浴びる成功した女性企業家であるジュールズは、「社会貢献の一貫で高齢者を雇用する」という社内の取り組みを把握しておらず、「あなたにお願いする仕事はないの」と言ってしまう。しかしベンは、大らかに受け止め、頼まれなくても、自分が役に立てることを探し、自分にできることから始める。こうした人物なので、徐々に誰からも頼りにされるようになり、ジュールズにとってもなくてはならない存在となっていく。

 役職定年後の50代社員も、こうした成熟した大人の所作を見習うことができれば、60歳あるいは65歳まで頼りにされる存在として、組織に貢献していけるはずだ。役職定年後、立ち位置がつかめずに右往左往している感が現状ではあるが、上の世代のベテラン社員たちを下の世代の人たちは皆見ているのだ。そうした影響も考慮しなければならない。初めて直面する事態であり、ロールモデルとなるような事例もまだほとんどない状態である。現在の50代社員たちが手探りで、今後の道筋をつけていく役割をまさに担っているのである。
(文=相原/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント)

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

相原孝夫/HRアドバンテージ社長、人事・組織コンサルタント

早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン副社長を経て現職。人材の評価、選抜、育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。著書に『コンピテンシー活用の実際』『会社人生は「評判」で決まる』『ハイパフォーマー 彼らの法則』『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』など多数。

株式会社HRアドバンテージ

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