最初に抱いた違和感がもっとも正しい?
とはいえ、一度入社してしまうと残念な点があっても声をあげづらく、次第に受け入れてしまうケースも目立つ。過労自殺などのやりきれないニュースを見るたびに、多くの人は「なぜそんな状態になるまで働き続けてしまったのか?」という疑問を持つはずだ。
河合さんは、そうした悲劇が起きる背景に「確証バイアス」があると指摘する。人は自分の考えが正しいかどうかを判断するとき、自分の考えを証明する情報ばかりを探してしまい、反証情報に注目しない傾向が強い。ネット上でまき散らされるデマを信じ込み陰謀論を振りかざす人などは、その典型だ。
会社で内部の価値観を共有すると、いくら第三者が「間違っている」と指摘しても、確証バイアスによってなかなかその意見が受け入れられない。結果として、過重労働によるうつ病や過労死などの悲劇を招くことになるのだ。
そうならないためには、働き始めて抱いた会社への違和感を「メモをとって残しておくことが重要」と河合さんは話す。
「『この職場のここがおかしい』と感じたら、必ず最初にメモしておく。そのときの違和感は、絶対に間違っていません。職場に浸透する無意識の価値観に左右されて正しい情報を遮断してしまう前に、厳しい目で職場をジャッジすることが重要なのです」(同)
最初に抱いた違和感には、一切バイアスがかかっていない。それはもっとも判断力のある状態の感覚であり、だからこそ正しい判断といえるわけだ。働きながら、折に触れてそのメモを見直せば、その職場が問題あるかどうかを客観的にチェックすることができるという。
17時退社&残業ゼロで生産性が上がった会社も
それでも、運悪く残念な職場に当たってしまい、疲弊した挙げ句に転職を繰り返す人もいるかもしれない。そんなときはどうすればいいのだろうか。河合さんは「身近なところから『残念』を少なくしていくことが大切」と言う。
「残念には『惜しい』という意味合いもあります。つまり、『完全にダメ』というわけじゃない。だとすれば、『無駄な残業をせず定時に帰る』『物怖じせずに言いたいことは言ってみる』など、自分でやれることは意外にあります」(同)
先ほどの「心理的安全性」でいえば、グーグルはこの概念を育むためにチーム内でプライベートな事柄をそれぞれが告白する時間を設けた。すると、次第に話題はチームの仕事に移り、問題点や生産性を高める議論が自然に始まったという。
ポイントは、会社の同僚同士が「ひとりの人」として向き合うこと。そうした対話を重ねることで、結果的に生産性を高めることができたわけだ。
『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』 現場は一流、経営は三流――。日本人の能力が世界トップクラスに位置することは、OECD国際成人力調査から見ても明らか。ではなぜ意味不明なことが頻出する職場が生まれるのか。「この会社を変えてやる」と元気満々だった若手社員が、出世したとたん組織に「適応」してしまう。女性と男性の「性差」を正しく理解していない。短時間睡眠に慣れるのは脳が故障した証拠。50代になると能力は衰えると思い込む。このような職場の残念な現象について、健康社会学者が数多の研究に基づいて答えを出し、さらに600人強へのインタビューから改善の具体例を導き出す。