毎年、各社から発表される「理想の上司」のアンケート調査やランキング。近年、このなかに選ばれる顔ぶれがカリスマ型から親しみやすい兄貴型に変化している。今年3月に明治安田生命保険が発表した新入社員対象の同調査でも、「理想の男性上司」の1位は2年連続でウッチャンナンチャンの内村光良だった。
理由として多かった回答は「親しみやすい」「頼もしい」というもの。多くの新入社員が優しくて頼りがいのある上司を求めていることがわかる。
しかし、親しみやすい上司は本当にいい上司なのだろうか。「陰で会社の業績を支えているのは、周囲から嫌われているような上司です」と話すのは、『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント』(星海社)の著者で人材研究所社長の曽和利光氏だ。
部下がミスしたら徹底的にダメ出し
「周囲から嫌われているような上司が会社を支えている」とは、いったいどういうことか。曽和氏は、周囲から嫌われている上司を、あえて「悪人」と呼ぶ。
どの企業にも、自分が正しいと思うことをストレートに主張するタイプの上司が少なからずいるものだ。そうした上司は、人に嫌われたり非難されたりすることを恐れず、逆風を真正面から受け止める。そして、往々にして愛想が悪く自分を飾ろうとはしない。そのため、周囲からは好かれず、ときに「悪人」と評されることもある。
しかし、曽和氏は「企業には、自らの評価や不利益をかえりみず、ほかの人たちや組織に利益をもたらす“利他的行動”を取れる人材が不可欠」と語る。
たとえば、企業やチームに改革が必要なとき、個々の立場を慮りバランスを取ることばかりを考える調整型のリーダーに、大胆な改革ができるだろうか。嫌われることこそないかもしれないが、成果を上げるのは難しいに違いない。
部下への接し方についても同様だ。一般的に、部下から慕われる上司は部下が仕事でミスをしても怒鳴らず、逆にポジティブな言葉を投げかけて部下の成長を促すというイメージだ。
もちろん、それは悪いことではない。しかし、嫌われることを恐れない悪人のマネジメント術は「徹底的にダメ出しを行う」という真逆のものだ。
「部下に自分自身のことを理解してもらうために必要なのは、ポジティブな言葉ではなく、ネガティブなフィードバックです。ぐうの音も出ないほど部下を落ち込ませることにより、結果的に彼らが成長していくのです」(曽和氏)
どんな仕事でも、チームで動いて成果を上げるというケースがほとんどだろう。そのときに重要なのは、上司が一人ひとりの部下の向き不向きを把握し、彼らに自分の役割を的確に理解してもらうことだ。
「それができないチームは、最大限のパフォーマンスを発揮することはできません。だからこそ、好かれる上司よりも嫌われる上司が重要になるのです」(同)
人間関係の相談は完全スルー?
人間関係のマネジメントにおいても、悪人の上司は好かれる上司とはまったく異なるアプローチを取る。
変化の激しい現代では、素早い「判断力」が求められる。では、部下からチーム内の人間関係について相談を受けた際に、上司はどう判断すべきだろうか。
『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント』 自分が正しいと思うことはストレートに主張し、人に嫌われたり非難されたりすることを恐れず、逆風を真正面から受け止めても動じない。そんなふうに愛想が悪く、自分を飾らない人物は周囲に好かれず、ときに「悪人」とも評されます。しかし「利他的な悪人」である彼らこそが、数々の組織における変革の影の主役であり、原動力なのです。「部下の相談はスルーする」「リーダー批判は徹底的につぶす」など、本書では一見眉をひそめたくなるような、しかし真に会社の発展のための礎となる「悪人」のマネジメント論を展開します。