どんなに苦しい時間や出来事があっても、それを乗り越えていく人がいます。
そんな人たちを私たちは「折れない力を持っている」と表現しますが、この「折れない力」は今、「レジリエンス」という言葉でビジネスやスポーツを中心に重要視されています。
「レジリエンス」を正しく表現すれば、「折れない」というよりも「もとの形状に戻る力」といっていいでしょう。言うなれば潰されてもすぐに元通りになる「スポンジ」です。
ただ、「レジリエンス」は病気や離婚といったライフイベントや、ハリケーンや地震などの災害など、立ち直るのが難しいと見なされている大きな試練を乗り越えたというマクロ的なアプローチで語られることが多いのが現状。
この考え方を個人の日々の習慣として捉え直せれば、毎日落ち込むことなく、生き生きと、ポジティブに生活できる術が身に付くのではないでしょうか。
その方法を教えてくれるのが『心を休ませるために今日できる5つのこと』(ボニー・セント・ジョン、アレン・P・ヘインズ著、三浦和子翻訳、集英社刊)です。
著者のボニー・セント・ジョン氏は、5歳で片脚を失ったものの、1984年の冬季パラリンピックのスキー種目でアフリカ系アメリカ人として初めてメダルを獲得。その後、ビジネスコンサルタントに転身し、リーダーシップや人材開発の分野で活躍しています。
そんな彼女が個人の能力を引き上げ、日々生産性を高めるために重要視しているのが「マイクロ・レジリエンス」という手法です。
ジョン氏によれば、全般的な生活の質の向上に関わるのは、長期的な課題の克服よりも、むしろ日々の小さな課題をどのようにクリアしていくかということ。「塵も積もれば」とはよく言うものですが、毎日経験する無数の小さな傷が生産性に強く影響しているというのです。
では、「マイクロ・レジリエンス」ではどんなことをすべきなのでしょうか。ジョン氏は5つのフレームワークを用意します。
1.脳の使い方を切り替える(リフォーカス)
2.原始的な恐怖をする(リセット)
3.思考のクセを見直す(リフレーム)
4.体をリフレッシュする
5.心を活性化する(リニュー)
この5つのテクニックを駆使することで、「プレーの合間(業務の合間)」に心身が回復するスピードを高めるというのです。では、一つ一つ少しずつ見ていきましょう。
1.脳の使い方を切り替える(リフォーカス)
効率化の名のもと、複数の業務を同時並行で進めているビジネスパーソンは多いでしょう。しかし、このマルチタスクこそが、活力を衰えさせる原因になります。ならば、毎日の中に一つのことを集中して片づける時間を持つことが大事。カレンダーに自分の集中時間をあらかじめ書き込んでおき、集中できる環境を確保しましょう。
また、疲れた脳を切り替える方法として「運動」も取り入れるべきだと本書。その日の運動が脳の活動にも影響するとしたうえで、「肩まわし」や「首のストレッチ」でも切り替えるためのスイッチになるといいます。
2.原始的な恐怖をする(リセット)
ビジネスは競争の場であり、過度なストレスに晒される現場でもあります。そして、受けているストレスを我慢したままでいると、急に感情をコントロールできなくなってしまうことも…。
こうしたストレスに対しては、日々ケアをし、気持ちをリセットすることが必須です。例えば、今自分が思っている感情に名前をつけて客観視して冷静さを取り戻す、深呼吸などでリラックスする、安らぐ香りを嗅ぐこともいいでしょう。一つ一つの小さな習慣がストレスフルな自分をリセットする方法になるのです。
3.思考のクセを見直す(リフレーム)
怒りや悲しみなどのネガティブな感情を出すことは、健康の維持に役立つ場合もあります。しかし、そうした感情が周囲のモチベーションを下げてしまう側面もあるでしょう。
だからこそ、自分の思考の癖を把握し、客観的に見直すことが有効な対策になります。どんなことでも分解し、事実を抜き出せば対処ができますし、別の視点を持つように努めれば、一つの感情に苛まれることもなくなります。
4.体をリフレッシュする
生産性の向上は食生活からはじまるといっても過言ではありません。あなたを動かすエンジンの質は大事。不適当な種類のオイルを使えば、円滑に動く能力を失くしてしまいます。
本書では身体をフルで動かすための、水分補給と血糖値の考え方がつづられています。例えば水分ならば、マイクロ・レジリエンスの視点でどのタイミングで水を飲むべきかを教えてくれるのです。普段水分をあまり摂らないという人は参考にしてみるといいでしょう。
5.心を活性化する(リニュー)
心の活性化を実現するには、これまでのような日常的な対策ではなく、マクロ的な視点が必要になります。未来のことを考える「目的意識」を持つことが活性化につながるのです。
ジョン氏は目的には「人の生命力の通常の能力以上に拡大する神秘的な性質がある」と解きます。その性質を応用し、未来に目を向けさせるのが、この「リニュー」というレジリエンスの方法といえます。
◇
本書は具体的なケースをもとに、どのように日常にマイクロ・レジリエンスを取り入れるべきかがつづられています。
上手くいかなかったり、余裕がないと焦りばかりが募り、他人につらくあたってしまったり、すべてがストップしてしまうこともあります。ただ、それでは何の解決にもならず、むしろ事態はネガティブな方向へ転がっていってしまうでしょう。
究極の自己管理法ともいえる「マイクロ・レジリエンス」。今後、ビジネスパーソンのキーワードとなるかもしれません。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。