日本の企業に欠けている「Vision」
『「すぐ決まる組織」のつくり方 -OODAマネジメント-』(入江仁之/フォレスト出版)で、入江氏は日本の企業に「『夢のビジョン』とその体現度を評価基準として導入すること」を提言している。
「日本の企業には、米国の先進企業が持っている共通の判断基準である『Vision』、つまり『夢のビジョン』がありません。注意していただきたいのは、『夢のビジョン』は日本の企業が掲げている『ビジョン』や『経営理念』ではないということ。日本の企業が掲げている『ビジョン』は、経営陣の自己満足にすぎません。本来の『Vision』は、具体的な夢を指す言葉なのです。
たとえば、5年後に実現したい企業の夢は何か、顧客に感動をもたらし従業員が夢中になれる夢や実現させたい理想の状態を、それぞれの企業の事業環境のトレンドや潮目の変化を観察して設定することです。
『夢のビジョン』を起点として、仕事へ愛着心を持ち結果が出るまでやり抜く気持ちを持った組織に改革するのです。従業員一人ひとりの行動は、この『夢のビジョン』にヒモ付いたものとなり、人事評価もそれに沿ったものとなります」(同)
入江氏は、個々人に対する定期的なレビューは週次の1on1ミーティングに加えて、四半期または半期ごとのラウンドテーブル形式でのセッションで行うのが有効だという。
「日本の組織が陥りがちなのは、上司・部下の属人的なつながりを重視した評価です。上司との親しさの度合いで評価が決まってしまいがちなのです。上司は部下をパフォーマンス(業績)への貢献ではなく、自分の意見によく従うかどうかで評価するケースが多々あり、なおかつ、評価結果を本人に伝えない組織がいまだに多く存在します。その結果、上司は部下の人事を奴隷のように独断で決められるのです。
ラウンドテーブル評価では、評価される人の上の階層で、その人と一緒に仕事をすることの多い20人前後を集めて、その人が『夢のビジョン』に向けて、どういうリードをして、どういう成果が出たかを評価します。ラウンドテーブルで評価し始めると、最初に変わるのが上司の意識です。上司は自分の評価の根拠をみんなの前で説明せざるを得ません」(同)
入江氏は、多くの日本企業の現場を見ていくなかで、“おべっか人事”や“好き嫌い人事”が横行していることに気がついた。
「ある企業では、ラウンドテーブル評価の場で上司が、一人の部下を取り上げ、いかに自分に貢献してくれたかをとうとうと説明し始めたのです。私がこれまでにかかわったケースでは、好き嫌いの間違った評価をしていた上司が、少なくても2割くらい出てきます」(同)
このラウンドテーブルによる人事評価が機能して、おべっか人事や好き嫌い人事なくなり公平性を保てるとなると、部下は上司のためではなく、「夢のビジョン」に沿った主体的な行動、つまり自分が正しいと思う行動ができるようになっていくのだという。
(文=編集部)