2018年、政府が働き方改革の一環として兼業・副業の解禁を推奨し「副業解禁元年」を迎えた。コロナ不況の真っ只中にある今、本業のほかに収入源を得たいと考えているビジネスパーソンも多いだろう。
そんななか、都市部で働きながら地方企業の事業に携わる“地方副業”が注目を集めているという。地方の地場企業と都市部人材のマッチングを目的とした「ふるさと副業」を展開するサービス「サンカク」の責任者、リクルートの古賀敏幹氏に話を聞いた。
副業・兼業を解禁している企業は49.5%
まずは、現在の日本企業に兼業・副業がどれだけ浸透しているのかを見てみよう。リクルートが2020年に企業の人事担当者に向けて兼業・副業に関する調査(「兼業・副業に関する動向調査データ集2020」)を行ったところ、全体の49.5%の人事担当者が「兼業・副業を認める人事制度がある」と回答したという。
「49.5%という数字が多いか少ないかは意見が分かれますが、約半数の人事担当者が副業を認める人事制度の導入をしていることが明らかになりました。また、『人事制度がある』と答えた人のうち72.2%が、この3年以内に制度の導入を決めた、と回答しています。2018年からの3年間で、各企業の兼業・副業を認める制度導入が一気に加速したようです」(古賀氏)
また、企業が兼業・副業の制度を導入する目的として最も多かったのが「従業員のモチベーション向上のため」(52.5%)で、次いで「従業員の定着率の向上、継続雇用につながるため」(46.7%)だった。古賀氏によると、数年前までは考えられない結果だという。
「数年前は副業・兼業を“認めない理由”として『離職率が上がる』という不安の声をよくお聞きしました。しかし、今は副業や兼業を認めて社員の柔軟な働き方を容認するほうが離職リスクが下がる、という考え方が浸透しつつあります。離職率を下げるために、今後も兼業・副業を認める制度導入が進む可能性が高いです」(同)
一方、雇用形態が正社員の個人に目を向けると、兼業・副業を行っている割合は9.8%にとどまっているが、47%の人が「今後実施したい」と回答している。企業の副業推進も相まって、副業人口もさらに増えていくと予想されている。
各プロジェクトの労働時間は月40時間以下
副業を始める人や解禁する企業が増え、副業の種類も多様化している。そして、近年では、都市部で働いているビジネスパーソンが地方企業の仕事にリモートで参加する“地方副業”も選択肢のひとつに加わっているという。
サンカクでは、都市部人材と地方企業の仕事をマッチングする「ふるさと副業」を2018年から展開している。ちなみに、同社では「複業」や「兼業」などの表現があるなかで、あえて“サブ”を意味する「副業」を使用しているという。
「言葉の解釈はサービスによって異なりますが、当社では兼業や複業を使う場合は“本業”と同等と捉えています。兼業、複業で人材を募集している企業でも『週に2日は出勤が必須』という条件を出すケースがありますが、正社員で週5日勤務のビジネスパーソンにとってはハードルが高いですよね。また、生活に直結する仕事以外のやりたいことを軸にしたことなら、新しいことにもチャレンジしやすくなります。本業で生活が成り立っている前提で、副業で本当にやりたいことに挑戦してもらいたい、という意図で“副業”を使っています」(同)
ユーザーはあくまで副業として関わるため、サンカクの案件は本業に影響が出にくい労働時間を提案している。各プロジェクトの労働時間はひと月あたり20~30時間、長くて40時間になることが多いという。
「サンカクの『ふるさと副業』では労働時間を40時間以下になるよう推奨していますが、当社以外のマッチングサービスや副業先企業との契約状況によって異なります。サンカクの『ふるさと副業』での導入の理由としては、大きく『新規事業の立ち上げ』『立ち上げたばかりの事業の推進』『ECやデジタルマーケティングの強化』『IT化やデジタル化をしたいので知見がある人材を雇いたい』『副業人材の受け入れを推進』『リモートワーク人材の受け入れ』の6つのタイプに分けられます」(同)
サンカクには、長野県の金券ショップの企業が「デジタル買取アプリ」をつくるために“IT人材”を募集したり、青森県の造園業者が新規事業として立ち上げた「野菜工場」のマーケティング人材を募集したりと、地域に根付いた企業のプロジェクトが多数掲載されている。
「採用は、企業の担当者と副業希望者が座談会やディスカッションをしてマッチングします。一般的な採用面接の雰囲気とは違い、和やかなムードで進むのが特徴ですね。たとえ副業であっても『一緒にゴールを目指す仲間』として副業人材を採用している企業が多い印象です」(同)
「ふるさと副業」に掲載されているプロジェクトは、リモートワークで月に5~10万円前後の報酬を受け取れる案件が多い。オンライン化が定着したことも地方副業のハードルを下げているのは確かだ。
副業市場が広がりを見せる一方で、サンカクでは「受け皿の獲得が大きな課題になっている」と古賀氏。
「プロジェクト掲載の営業をしても『正社員がほしい』『副業では適当に仕事されそう』と断られることもしばしば。しかし、『ふるさと副業』を導入した企業の満足度はかなり高く、マッチングの確率も非常に高いです。これからも、一度でも地方企業に導入してもらえるように工夫していく予定です」(同)
ユーザーは自分のスキルを地域貢献に活かす
サンカクで「ふるさと副業」をしているユーザーの年齢層は、20代後半~40代が中心。“ふるさと”と冠してはいるが、サイトに掲載されているプロジェクトなら自分の出身地以外の企業にも応募できる。
「参加者は人生に前向きな人が多い印象です。数多ある副業のなかでも“地方副業”を選んでいる人なので、地域に貢献したいという思いも強いですね。実際に参加している30代のユーザーは、労働時間は確保できるとはいえ、時間や作業量の管理の難しさを感じているそうです。その一方で『経営者の考えを身近で感じられるので、学びも多い』と言っていたのが印象的でした」(同)
ほかにも「さまざまな意見に触れられて、今後の自分の考え方にも大きな影響を受けている」「フィードバックがもらえるので、自分のスキルとほかの人のスキルの違いが明確になった。自分が持っている強みを実感できた」という声が上がっているという。本業から一歩踏み出すことで、新たな視点が得られるようだ。
「副業先を選ぶ基準も十人十色で、出身地で選ぶ人もいれば『石川県に旅行に行ったときに好きになった』という理由で石川県のプロジェクトに応募する人もいます。複数の案件を掛け持ちするユーザーはいませんが、ひとつのプロジェクトが終わったら別のプロジェクトに参加するリピーターもいますね」(同)
プロジェクトの副業期間も企業によってまちまち。2018年から今まで長期間実施している案件もあるという。
「世間では副業=小遣い稼ぎというイメージが強いですが、『ふるさと副業』でその固定観念を覆したいです。副業だからこそできる新しい挑戦があるので、ユーザーのみなさんには、たとえ未経験の職種でも物怖じせず、いろいろなプロジェクトに応募してほしいですね。サンカクでは、みなさんが思い切りチャレンジできる機会を常に用意しておきたいと思います。サンカクでの体験、出会いを通じて、将来のキャリアに向けた選択肢が広がり、その先にまた新たな出会いが生まれて、地域や社会の盛り上がりにつながればと考えています」(同)
副業でできる“地域貢献”。まずは、自分の出身地にどんな副業があるのか探してみるのも一興かもしれない。
(文=真島加代/清談社)
●「ふるさと副業」