今回の「通年採用の拡大」は、これに対するカウンターメッセージであろう。採用が多様化されたら、政府の望む一括採用はなし崩しになる。産学報告書は、あえてワンデイ・インターンや教育的インターンとは別に、専門知識を生かす長期インターンを実施すると述べている。これが採用を念頭に置いていないとは考えられまい。
いうまでもなく、グローバル市場で戦わざるを得ない企業にとって、優秀かつ多様な人材を獲得することは必須であり、この通年採用拡大への舵切りは驚くにはあたらない。そもそも、企業のグローバル化が進めば、採用の対象は日本人に限らなくなる。大学教育も世界での競争になる。大学も政府の絵空事に乗っかり呑気なことをやっていると自分たちも危なくなることを少しは自覚したのであろう。なにせ、大学の学生という製品の出荷先は政府ではなく、企業である。
政府は企業に65歳までの再雇用を強制
次に、なぜ中西会長は批判を覚悟して、聖域ともいえる終身雇用について「維持は困難」と言ったのだろうか。現実的に終身雇用を維持するのは、現在の変化の激しい経営環境のなかでは難しいのは当然であろう。最近は、40代後半に向かう団塊ジュニアを中心にした早期退職が積極的に行われているという報道が目につく。早期退職ではあるが、企業が事実上「終身雇用は無理」と言っているわけである。
日本企業の「三種の神器」の一つといわれる終身雇用であるが、これは第一次オイルショックに端を発した不況時に政府が、企業に対して労働力調整を雇用市場ではなく企業内で行うように強要したからである。そこから、ジョブ型では配置転換できない(同額給与を維持できない)ので、対象が不明な業務遂行能力やポテンシャルといった奇妙な人事考課基準が苦肉の策として生まれたわけである。
そして、終身雇用が定着していくのだが、企業の観点からみて、終身雇用である限り、出口を設定する必要がある。それが定年制度である。終身雇用と定年制はワンセットである。寿命の延びとともに、サザエさんのお父さん・波平さんの時代には55歳だった定年が60歳まで延びて、それが定着していたわけである。昨今の経営環境の変化やテクノロジー革新の加速化を考えると、むしろ定年は早めたいというのが企業の本音であろう。生き残りのためにはマネジメント全体の若返りが必要であるという認識は、企業内でも強いはずである。