組織に頼らず自分というブランドで食べていく。東大卒のキャリア官僚の宇佐美典也氏は、「肩書きが無いと何もできないのではないか」というコンプレックス、「一生、公務員という立場でよいものか」という迷いから、退職し、独立することに。しかし、「経済産業省」「官僚」という肩書きがなくなった宇佐美氏は、まったく社会に通用しなかった。
『肩書き捨てたら地獄だった』(宇佐美典也/著、中央公論新社/刊)は、エリート官僚が肩書きを捨て、仕事もお金も仲間もない地獄で見出した、「頼れない」時代の働き方を紹介する一冊だ。
名門私立中高一貫校から1年の浪人を経て、東京大学経済学部入学。国家公務員I種という難関試験をパスし、経済産業省にキャリア官僚として入省。絵に描いたようなエリートコースを歩んでいた宇佐美氏。しかし、心のどこかでは「自分は決められたレールの上を進んできただけ」という思いも抱いていた。
そして、退職を決意。ところが、進めていた友人との起業計画は頓挫してしまう。官僚時代から書いていたブログやその書籍化の成果はあったものの、お金を稼ぎだす決定的な手段を見つけることができなかった。この頃から「宇佐美はただの馬鹿。その証拠に、満足に暮らしていくことすらできない」などと吹聴する人も現れる。経済産業省のつながりでなんとか得ていた仕事も次第になくなっていく。
「決められたレールの上で、誰かが与えてくれた合格点を取り、選抜という難関を乗り越える」ことはできても、「目の前の人のニーズを満たすために自ら考えてサービスを創出し、その対価を得る」ということはできない――当時の宇佐美氏の社会に対する認識が甘かったのだ。
しかし、宇佐美氏は一筋の光を見出す。それがブログだった。
官僚時代に書いていた宇佐美氏のブログは、キャリア官僚としての給与水準を公開したり、普段考えていること、官僚バッシングなど、官僚として思うところを書いていた。個人の宇佐美典也をさらした内容で、ブログの書籍化につながるほどの人気を博した。
このブログは、官僚を辞め、本を刊行した後も、あくまで日ごろのストレスを吐き出したり、頭を整理するために、ブログを続けていた。退職後も、1日に数千を超えるアクセスがあり、魅力のある記事さえ書けば、読者はたくさんいることに気づく。退職後は制限が無く、記事をのびのび書いていたためか、むしろアクセス数は増加傾向にあったのだ。
ブログには肩書きとは直接的に関係のない、まだ知らないネットワークの山が眠っているのでは…。宇佐美氏は、このブログをきっかけに復活することになるのだった。
大きな組織から飛び出し、立派な肩書きを捨て「宇佐美典也」という個人で稼いで生きていく。一度はドン底に転落するも、そこから個人で這い上がった宇佐美氏の生き方や考え方は、起業や独立を考えている人や将来への漠然とした不安を抱いている人に、働き方について考えるきっかけとなるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。