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スポーツライター小宮良之の「フットボールビジネス・インサイドリポート」第3回

今晩スペイン戦 日本人好みの“走るサッカー”では勝てない!

文=小宮良之
post_446.jpg『ザックJAPANはスペインを倒せるか?』
白夜書房

「ここ、って言うときに走ればいいんだよ。タイミングが大事。サッカーは頭を使わないと」

 2002年日韓W杯など日本代表の中心的存在として戦ってきた松田直樹は、生前、プレーの極意についてそう話していた。

「若い選手はさ、“走ればいい”って思っているところがあるじゃん? でも、自分のポジションを離れてしまえば誰かが、空いたスペースをフォローしなければならないわけで、タイミングは考えないとね。走り回るよりも、適切なポジションを取って、勝負所になったらスピードを上げる。それで守備も攻撃もうまくいくはず。“走っている奴は偉い”みたいな風潮が日本にはあるし、監督もそれを求めてくるから難しいんだけどね」

 ロンドン五輪を戦う日本サッカー男子代表選手たち。彼らの走力は瞠目に値する。技術レベルも決して低くはなく、動きの速さとのコンビネーションで守備陣に立ち向かう姿勢は悪くはない。

 しかしながら、世界を相手にするには苦しむだろう。

 なぜなら、彼らは走りすぎ=急ぎすぎ、正確な技術にも狂いが出てしまっている。また、走り続けて緩急の変化が乏しいことで、次のプレーを相手に読まれやすい。さらにポジションを移動=留守にしていることで敵に隙をつけ込まれることもしばしばだ。懸命に走って帰陣してはいるのだが、五輪前哨戦のメキシコ戦でもそうだったように、人の配置が偏り、ペナルティエリアの前など危険地域を明け渡す場面は少なくない。

 フットボールは兵法、または将棋やチェスとも似ている。攻める、は相手の陣=ポジションを奪うこと。一方、守る、とは陣=ポジションを奪われないことだ。こうしたせめぎ合いを90分間の中で繰り返すわけだが、敵に策士がいれば、ボールに食いつかせて体力を奪ったり、痛手にならないポジションを奪わせて致命傷となるポジションを奪う、という高度な戦術もある。

 懸命に走る姿は美しいが、高いレベルの戦いでは駆け引きが勝敗を分けるのだ。

 もっとも、走ることが悪なわけではない。むしろ、走力は必要不可欠だろう。スペイン代表のシャビ・エルナンデス、日本代表の遠藤保仁ら司令塔として君臨する選手たちの走行距離は1試合平均約14kmとチーム1,2を争う。彼らはあらゆる選手のサポートに入り、走行距離は自ずと増える。ただし、走ること自体に第一の目的があるわけではない。いいポジションを取ることが前提で、効率的に走りながらスペースをカバーしているのだ。

小宮良之

小宮良之

1972年、横浜市生まれ。大学卒業後、スペインのバルセロナに渡り、語学力を駆使してスポーツライターとして活動。EURO、冬季五輪、W杯などを取材後、2006年から日本に拠点を移し、人物ルポ中心の執筆活動を展開する。『アンチ・ドロップアウト』『フットボール・ラブ』(共に集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』『導かれし者』(共に角川文庫)、『ザックJAPANはスペインを倒せるか?』(白夜書房)など著書多数。最新刊は海外移籍した日本人の戦いを検証した『サッカー「海外組」の値打ち』(中公新書ラクレ)。

Twitter:@estadi14

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