NEW

日本電産、加速する主力事業の転換〜自動車業界OB“異例の”積極採用が早くも功奏

【この記事のキーワード】

, ,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本電産本社(「Wikipedia」より/Jo)
 日本電産では、東証1部上場の大手自動車部品メーカー・カルソニックカンセイの前社長だった呉文精氏(57)が取締役副社長執行役員に就任した効果が、早くも出てきた。2013年4~9月期の連結売上高は、前年同期比21.5%増の4296億円と過去最高を達成。あわせて14年3月期(通期)の純利益見通しを、550億円(前期の6.9倍)に上方修正した。新たに強化分野と位置付けた自動車・家電向けが大幅に伸びるためだ。15年3月期には、自動車・家電向けの売り上げが主力のパソコン向けを上回るとしている。

 呉氏は日本電産の永守重信・社長兼CEO(最高経営責任者)が直接スカウトし、現在は社長補佐としてグローバルビジネス統轄本部、車載事業本部、家電産業事業本部を担当。日本電産トーソク、日本電産テクノモータ、日本電産モータホールディングス(HD)、Nidec US Holdings Corporation、日本電産モータ各社の会長を兼務する。これら5社の内、日本電産テクノモータを除く4社の会長は、これまでは永守社長が兼務していたが、呉氏に権限を移譲した。呉氏が、8月に69歳になった創業社長・永守氏の後継者の有力候補に浮上したことになる。

 6月末の株主総会後の一連の役員人事で、4人の副社長体制になった。代表取締役副社長執行役員兼COO(最高執行責任者)の小部博志氏(64)、取締役副社長執行役員の澤村賢志氏(71)、そして今回、取締役副社長執行役員に就任した呉氏と佐藤明氏(58)の4人だ。

 小部副社長は1973年の日本電産の設立に参加したメンバーで、ずっと永守社長を支えてきた大番頭だ。澤村副社長は98年に日産自動車常務から転じ、社長補佐として企業戦略室を統轄している。佐藤副社長も日産の出身。日産では財務畑一筋で執行役員を務めた。日本電産に転じ2012年6月、取締役専務執行役員に就任、13年4月副社長執行役員に昇格した。コンプライアンス室・CFO戦略室・広報宣伝・IR部・関係会社管理部・法務部・経理部・グローバル税務企画部・財務部を統轄する。

 呉氏も日産グループからのスカウト組だが、異色な経歴の持ち主だ。東京大学法学部を卒業し、1979年に旧日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に入行。国際業務部米州担当副部長を務めていたが、興銀の経営統合を機に銀行を去る。2000年、米ゼネラル・エレクトリックの日本の金融子会社、GEキャピタル・ジャパンに転じ事業開発部長。03年からGEフリートサービス社長兼CEOを務めた。その後、日産の自動車部品子会社・カルソニックカンセイに招かれ、08年6月に社長兼CEO兼COOに就任した。

 呉氏は13年3月末にカルソニックの社長を退任し、4月1日付で日産の常務執行役員としてアジアマネジメント(中国などアジア地域の窓口)と関係会社のオペレーションを担当することが決まっていた。ところが、呉氏は土壇場になって日産への転職を拒否。4月1日付で日本電産の特別顧問になった。呉氏は日産の生え抜きではない。「傾きかけた船から下りたのでは」(ライバルの自動車メーカーの首脳)と噂されるほど、この人事は物議を醸した。永守氏を支える新体制は大番頭の小部氏と参謀の澤村氏を両翼に、生産・営業は呉氏、内部の統制は佐藤氏が担う。

●転機迎える日本電産

 日本電産は今、大きな転機を迎えている。世界のトップシェアを誇ったパソコン向けハードディスク駆動装置(HDD)用モータが、スマートフォン(スマホ)需要に乗れず大苦戦しているからだ。13年3月期連結決算(米国基準)の売上高は、前期比3.9%増の7092億円とわずかに増収だったが、営業利益は同75.9%減の176億円(12年同期は730億円)、最終利益は同80.4%減の79億円(同407億円)と大幅な減益を余儀なくされた。主力のHDD用モータなどのパソコン関連部品の需要減に加え、生産拠点の見直しによる構造改革費用として370億円を計上した結果、最終利益は2年連続の減益となった。株主配当は前期の1株90円から85円に5円減配した。

 配当は自動車・家電シフトが成功したことから、14年3月期には年90円に戻す。「いつまでもハードディスク駆動装置(HDD)にしがみついていると思われたくない」。永守社長は今春、大阪市内で開いた決算発表会見の席で、HDD依存からの脱却をより鮮明にした。「次は車載用モータ分野を中心にM&Aを考えている。1兆円の売り上げ、1000億円の営業利益を出すための第1ステップの仕上げとなる」と強調した。

 10月22日に大阪市内で会見した永守社長は「車の自動運転など電動モーターの新しい需要が生まれている」と語り、今後の成長に自信を示した。「風が吹かないなら、自分で風を起こさなあかん」と、永守節が炸裂した。

 人材面でも、呉文精副社長に続き日産や三菱自動車から幹部クラスや技術者を次々とスカウト。自動車関連への傾斜を強めている。株価は10月23日の前場で9330円の年初来の高値をつけた。永守社長の株価を強く意識した経営は相変わらずだ。業容の一変を、株式市場が評価すれば5ケタ(1万円)の株価回復も夢ではない。1999年には3万円という超高値をつけている。

 また、10月22日の記者会見で永守社長は、「税金をまけてもらえる分は、従業員に還元しないといけない」と明言し、14年にベースアップによる賃上げを実施する考えを表明。デフレ脱却に向けた安倍晋三首相の要請に応じる。永守氏は「ボーナスだけでなく、基本給を上げないと従業員はもらった気がしない」と言い切った。
(文=編集部)