数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。
危険ドラッグが社会問題になり、警察は本気になってその摘発に力を入れている。
ここまでは正しいのだが、実は従来の覚せい剤と今回の危険ドラッグの摘発は、経済学的にみると正反対の取り組みなのである。そして危険ドラッグ摘発の強化により、ひょっとすると、とても皮肉なことが起きる可能性がある。
経済学的にみると、ドラッグや覚せい剤の売買にはある特徴がある。経済学なんて高校以来勉強したことがない人も多いだろうが、ちょっとためになる話なので我慢して図1のグラフを見てほしい。
高校の経済の授業で、需要曲線と供給曲線というのを習ったのを覚えているだろうか。要は価格が高いほど需要は少なく、価格が下がれば需要が増えるというのが需要曲線。その逆が供給曲線。このふたつの交差する均衡点で、モノの価格は決まるというものだ。
さて、ドラッグの場合、需要曲線にちょっとした特徴がある。直線で描くと縦に近い形で線が立っているのだ。このことは覚せい剤中毒者の気持ちになって考えるとよくわかる。覚せい剤を常用するようになると、とにかくそれが欲しくなる。だから売人から高い値段を示されても仕方なく買ってしまう。少し不謹慎な言い方かもしれないが、もしビールだったら「消費税が上がったから、ちょっと我慢しよう」となるのだが、覚せい剤の場合は「価格が上がっても我慢できない」となるわけだ。これが通常の商品とドラッグの需要曲線が違う点なのだ。
●供給側の摘発強化、その重大な欠点
現在危険ドラッグへの警察の取り組みは、このようなドラッグを販売する販売店やインターネットサイトを摘発することに主眼が置かれているようだ。以前は脱法ドラッグと呼ばれていた通り、基本的には現行法では違法ではないので、利用者を摘発することが難しいという理由があるらしい。そこで販売店を摘発してドラッグを押収した上で、そのドラッグを違法認定して禁止するという手順をとることになる。