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江川紹子の「事件ウオッチ」第38回

安保関連法の強行採決で直視すべき「敗北」 最大の敗因は何だったのか

文=江川紹子/ジャーナリスト
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「『選挙』という人がいるかもしれません。でも、それは半分でしかありません。その前提があります。選挙で勝った者にこういう権限を預ける、選挙で勝った者にこういう権力を行使させる、そういうことを憲法で決められているから、選挙で勝った者に一時的に権力が預けられている。同時にその憲法は、無条件で権力を預けるのではない、こういうプロセスで誰に預けるかを決めることを規定していると同時に、その権力者はこういう規制の中でしか権力を使っちゃいけない。この(民主主義と立憲主義の)両方を憲法で決めて、セットで私たちは委ねられているんです」

 立憲主義の下では、法案は憲法に適応するようにつくらなければならない。法案に合わせて、憲法を変えるというのは、あってはならない禁じ手だ。ところが、国会審議の中で、中谷元防衛大臣が「現在の憲法を、いかにこの法案に適応させていけばいいのか、という議論を踏まえて閣議決定を行った」と答弁したように、今回はその禁じ手が使われたのではないか。立憲主義の原則は、ないがしろにされたのではないか。

 こうした「問題の本質」が盛んに論議されるようになったのは、今年6月の衆院憲法審査会で、自民党が推薦した長谷部恭男・早稲田大教授のほか、民主党推薦の小林節・慶應義塾大名誉教授、維新推薦の笹田栄司・早稲田大教授の3参考人が、そろって「安保法案は憲法違反」と明言してからだった。その後、メディアが盛んに憲法学者にアンケートやインタビューを行った。内閣法制局長官の経験者や元最高裁判事などの見解も出た。これによって、「憲法違反」との評価は、野党独自の主張や左翼的な一部学者の説ではなく、圧倒的多数の専門家の共通理解であることを国民も理解した。

 こうなって初めて、今回の事態は立憲主義を揺るがす問題ではないか、との認識が広がってきた。だが、法案を止めるには遅かった。これは本来、総選挙の時に、十分に議論しておくべきテーマだったのだ。

立憲vs.非立憲

 振り返ってみると、安倍内閣が集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行ったのは、昨年7月。すぐさま各地の弁護士会やさまざまな団体が反対の声を挙げたが、運動はあまり盛り上がらなかった。9月29日に、安保法案に加えて原発や消費税、沖縄の基地など様々な問題で“安倍政治”に抗議する人々が国会前に集まったが、その参加者は主催者発表でも2000人だった。これを報じた朝日新聞は、見出しに「大規模デモ」と書いた。当時は、これが大規模と評価されるほど反対運動は低調だった。

 マスメディアの報道も、9~10月には減った。朝日新聞のデータベースで「集団的自衛権」が使われた記事を検索すると、7月には479本、8月には363本あったのに、9月には172本、10月は171本だった。しかも1面など、目につきやすいページに掲載される記事は極めて少なかった。

 そんな状態で、11月になると急に“解散風”が吹き始め、衆議院が解散、12月に総選挙となった。安倍首相は「この解散は、アベノミクス解散です。アベノミクスを前に進めるのか、止めてしまうのか、それを問う選挙です」と繰り返した。自民党の公約集も、経済政策を前面に押し出し、「集団的自衛権」の言葉も見られない。「切れ目のない安保法制の整備」が、「外交」の項目に、何の見出しも立てられないまま、ひっそりと載ってはいるが、300近い公約が列挙された中に埋もれて、まったく目立たない。菅義偉官房長官も、特定秘密保護法や集団的自衛権行使容認は争点にならないとして、「何で国民の信を問うのかは、政権が決める」と強調した。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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