恋愛はコスパで判断?デートよりゲーム、同棲はお得…「専業主夫」肯定派も急増
9月30日、筆者の新刊『恋愛しない若者たち ~コンビニ化する性とコスパ化する結婚』(ディスカヴァー21)が出版された。テーマは「恋愛しなくても、結婚はできる!」。
ここ数年、20代男女から、「恋愛は面倒」「コスパに合わない」との声をよく聞く。一方で、9割の若者は言うのだ。「いつかは(恋愛)結婚したい」と。
この矛盾を解消するためには、「結婚に恋愛は要らない」と、いったんスパッと切り離して考えるしかない。それが本書を執筆したきっかけだった。
本連載前回記事『「できちゃった婚」狙いの女性たち?恋愛リスクを避ける若者』で、「今の20代男女は恋愛をするうえでの“リスク”がひと昔前よりも高くなっている」と書いた。ストーカー、リベンジポルノ、デートDV……。さらに、男性にとっては「でき(ちゃった)婚」もリスクと考える向きがあり、回避するべくあらゆる手段を講じているという現実も紹介した。
そんななか、不景気しか知らない今の若者が、消費だけでなく恋愛や結婚にもコストパフォーマンス(コスパ)を意識するのは、自然の流れ。そして世の恋愛の多くが「コスパに合わない」からこそ、「恋愛は面倒」となるのだろう。
では逆に、彼らが恋愛で意識するコスパとは、具体的になんなのか。まず女性は、恋愛にかける「時間」がカギを握るようだ。たとえば、こんな声がある。
・「元カレと付き合った3年間がもったいない。あのとき、別の男性と付き合っていれば、今頃もっと幸せになれていたかもしれないのに」(27歳女性)
・「コスパでいえば大損。『私の青春を返せ』って感じ。つまらない男に時間を取られたから、婚期を逸しそう」(29歳女性)
いささか身勝手な感もあるが、20代女性の多くは、「なんであんな人と」と後悔するような異性に時間を取られることを、「時間のムダ」「コスパに合わない」と感じるようだ。
本連載10月8日記事『交際ゼロで結婚する若者たち 「恋愛→告白→セックス→結婚」の日本は異質?』(http://biz-journal.jp/2015/10/post_11869.html)で述べたとおり、欧米では複数の異性と同時並行で付き合うのが当たり前。しかし日本はといえば、いまだにまず「告白」という手順を踏んで、原則「ひとり」としか付き合えない。そのひとりに時間を拘束されてしまうため、別れた際に「その時間があれば、もっといい人と出逢えたかもしれないのに」と考えるのだろう。
デート代は月2万4000円
一方、20代男性が「コスパに合わない」と感じるのは、やはり「お金(恋愛にかかる費用)」のようだ。
実際、いまの若い男性はデートにどれぐらいのお金をかけているのだろうか。
家計簿アプリ「マネーフォワード」の「2014年独身男女のお金実態調査」によると、1カ月にパートナーのために使える食事代やデート代、プレゼント代などの合計金額は、男性平均2万4113円、女性平均1万3778円だ。
1カ月に2万4000円程度と聞いて、「それだけ?」と声を上げる20代女性もいる。だが、考えてみてほしい。今の20代男性の平均年収が、果たしてどれぐらいなのか。
たとえば、ウェブサイト「年収ラボ」の調べによると、20代男性の「平均年収(月~金フルタイム生業が基本)」は、318万円。これを単純に12カ月で割ると、26.5万円だ。
ここから社会保障や税金を引かれ、さらにひとり暮らしで家賃も光熱費も取られるとなると、自由になるお金は、おそらく月7万円あるかどうか。そこから、月2.5万円近くをデート代やプレゼント費用に取られるのは、正直言って相当な痛手だろう。
また、男性は恋愛にかけた費用をほかの趣味などと天秤にかけることも多いようだ。取材中、こんな言葉もよく聞いた。
・「前の彼女に使ったお金は、たぶん50万円超え。ドラッグストアで「財布忘れたから貸して」とか言われて貸した分も入れれば、もっといってる。それだけあれば、どれぐらい旅行に行けたんだよ、と思うと頭にくる」(25歳男性)
・「(彼女と)付き合うまでは、ゲームやDVD(購入)に月3~4万円かけられた。正直、それを上回るほどデートが楽しいかっていうと、そうでもない」(28歳男性)
このような気持ちはわからなくもない。前回記事でお伝えしたようなさまざまな「恋愛リスク」があることを考えても、確かに恋愛はコスパに見合いにくい。途中経過がうまくいっても、その結果は、昨今の恋愛シミュレーションゲームとは違って「バッドエンド」になる確率のほうが高いかもしれない。
同棲、肯定派は85%
では逆に、コスパに見合う恋愛や結婚とは、どのようなものなのか。
今回、筆者は拙著『恋愛しない若者たち』を執筆するにあたり、マーケティング会社のクロス・マーケティングや出版社のディスカヴァー21とともに、600人男女に定量調査を行った。
そこで独身400人の圧倒的支持を得たのが、男女2人で家賃や生活費をシェアできる「同棲」だった。また、そのままお試し婚や事実婚へと流れる「同棲婚」も、「ありだと思う、実践してみたい」が、男性37%、女性49%にも上り、「自分は実践しないが、ありだと思う」も含めると、なんと男女とも約85%が「肯定派」だったのだ。
確かに、家賃や生活費をシェアしながら結婚へと進めば、ひとり暮らしをしながら外で会って食事するより、はるかにデート費用は抑えられる。そのうえ、「結婚までのお試し」と位置づければ、時間的にもムダがない。まさに、「コスパでお得」なのだろう。
実際に同棲するカップルは、どれぐらいいるのか。
住まいの情報サイト「アットホーム」の2013年の調査や、結婚式の検索・見学サイト「すぐ婚ナビ」を運営するA.T.bridesが2015年に発表した調査によれば、結婚が決まる前に同棲を経験したことのある若い男女は、それぞれ41~44%も存在する。
ではなぜ、同棲したのだろうか。
「すぐ婚ナビ」の調査によると、「いつの間にか同棲していた」が33%と同棲理由のトップ。わずかだが「結婚を意識したから」の32%を上回った。
そう、実は「好きで好きで、毎日顔を見ていたかった」から同棲するカップルよりも、なんとなくお得そうだし、一緒にいれば安心感もあるし、と「なんとなく」「いつの間にか」同棲するカップルも多いのだ。
女性が稼ぎ、男性が家事をする「逆転婚」
また、最近は「彼のほうが料理上手だし」「彼女のほうが稼いでくれそうだから」などといったカップルが、「女性がメインで稼ぎ、男性は主に家事をやる」といった「逆転婚」を選択し始めた。
先の調査でも、男性ほど「逆転婚」を肯定する傾向は強い。「ありだと思う、実践してみたい」は24%、実に4人に1人にも上るのだ。
A男(34歳)もその一人だ。結婚相手は、同じ職場の10歳年上の女性。年収は「たぶん、僕のほうが200万円ぐらい下なのかな」と言うが、妻の明確な収入は知らない。家賃や食費は原則シェアし、それ以外は「夫婦別ポケット」。そのほうが「男としてのプライドを保てるから」だと話す。
一方、B男(26歳)の月収は、バイト代の17万円。基本的に「専業主夫」で、家事はすべて彼の仕事だ。高級ブランドの広報で月40万弱を稼ぐ妻は、結婚前、「もし私と結婚したら、家のこと全部やってくれる?」と直球で攻めてきた。最初は「マジかよ」と思ったそうだが、主夫生活に突入してから、自分の“家事力”に気づいたとB男は笑う。
世界的に見ても、逆転婚は珍しくない。アメリカでは、すでに夫婦の4割が、妻の収入が上回る逆転婚だといわれている(2010年 アメリカ労働統計局調べ)。韓国でも、女性が主として一家を支える世帯が約530万世帯に達し、全世帯(約2000万世帯)の4分の1を超えているという(2015年 韓国統計庁調べ)。近年は「専業主夫」の増加も顕著だ。
こうした逆転婚や同棲婚は、「恋愛中、奢るのがもったいない」や「なぜ結婚したら、妻にお金を取られるのか」と考える男性陣にとって、費用面で「コスパでお得」なスタイルなのだろう。
同棲は、「早く結婚しないと子どもが産めない」と焦る女性にとっても、結婚までの時間短縮につながるはず。「自分より収入がいい男性が見つからない」との悩みも、逆転婚なら払拭できるに違いない。
ただ、これらコスパ恋愛やコスパ婚には、現在の日本の法制度では「意外な落とし穴」も指摘されている。その穴にハマると、最悪の場合、最も「コスパに合わない」といった、怖い結果を招き得るのだが……。これについては次回詳しくお話ししよう。
(文=牛窪恵/マーケティングライター、世代・トレンド評論家、有限会社インフィニティ代表取締 編集=平澤トラサク/インフィニティ)