個人がかかわる経済的意思決定で、大きなものの一つが、住居に関してだ。どのような住居に住むのかに加えて、「持ち家」にするのか、「賃貸」で住むのかの選択が重要だ。「持ち家か、賃貸か」については常に両論があり、テレビや雑誌などのメディアでも頻繁に取り上げられる。
経済的な判断として、その選択は「投資」として評価した場合に不動産物件の価格が「高いか・安いか」で判断するのが基本だ。購入して「持ち家」とした場合、家賃を支払う必要がなくなるので、この物件は「家賃相当の収益を稼いでくれる資産」だと考えることができる。「この物件を貸すとしたら、家賃でいくら稼ぐことができるか」を考え、あたかも株価のように不動産価格を評価するのだ。
考え方は、自宅用であっても、他人に貸す投資用不動産と同じだ。自宅の購入は「自分が店子の不動産投資」と理解できる。将来、転勤や転職、家族の事情などで引っ越す必要が生じることは十分あり得る。その場合に、転貸なら借り手を、転売なら買い手を探さなければならない。職業や暮らし方によって異なるが、住む場所や家の間取りなどを変えたくなるような変化は、人生にしばしば訪れるから、変化を過小評価しないほうがいい。
なお、近隣の相場から推定した家賃が丸々そのまま収益になるわけではない。築年数と共に家賃は下がるし、固定資産税に加えて将来の修繕などにもコストが掛かる。
また、将来の収益を現在価値として評価する際に使う「割引率」は、金利に将来の不動産価値の変動リスクを上乗せしたものでなければならない。「住宅ローン金利よりも、家賃収益の利回りが高いから、投資としてプラスだ」と考えるのは正しくない。
持ち家には、将来の家賃相場の変動、空室の可能性、不動産相場の変動、近隣の環境変化、物件の劣化、転売する際の流動性やコストなど、多くのリスク要因がある。にもかかわらず、普通の個人の場合、住宅は株式のように分散投資ができない。それなりのリスクを見込む必要があり、それに見合う高収益でなければ購入するべきではない。
住宅ローンは現在低金利だ。しかし、個人が借りる金利は、市場金利よりも高い。住宅ローンを使っての購入は損得計算上、銀行の儲け分だけ現金で購入する場合よりも損だというのが、正しい損得比較だ。