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ツタヤ図書館、市側の元図書館協議会会長がCCC天下り疑惑…新館長に就任

文=日向咲嗣/ジャーナリスト

 あの日から、もうすぐ丸5年を迎える――。被災した市民にとっては、真新しい建物に移転する市立図書館のリニューアルオープンについては、感慨もひとしおだろう。

 東日本大震災が起きた5年前、宮城県多賀城市立図書館では、建物の倒壊や来館者の人的被害こそなかったものの、市民が借りていた本の多くが津波で流出して蔵書が多数失われた。建物補修でも1年を超える休館を余儀なくされた。人も予算も足りないなかで、1日も早く復旧するために、図書館関係者はさぞや苦難の連続だったに違いない。

 そんななか、復興の象徴として菊地健次郎市長が推進してきたのが「ツタヤ図書館」の誘致だった。街に賑わいを呼ぶために、交通の便の良い駅前に新たな複合ビルを建設。その中にお洒落なカフェと新刊書店、レンタル店が同居する新感覚の図書館を設置する計画は、レンタル店大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が2013年から佐賀県武雄市で運営して話題になった公設民営図書館の基本コンセプトを、ほぼそのまま踏襲したものである。

 CCCが多賀城市新図書館の指定管理者となることが正式決定したのが一昨年6月のこと。そして、2年近くの月日を費やして3月21日にいよいよリニューアルオープンする。

 地元紙をはじめとしたメディアは、年明け早々から「年間120万人の来館を見込む」「市民利用率5割をめざす」などと、新図書館を手放しで歓迎するかのようなニュースが散見される。

 しかし、本サイトでもこれまで何度も取り上げているように、CCCによるツタヤ図書館運営に関しては、佐賀県武雄市での郷土資料大量廃棄や、除籍本とみまがうような古本による不適切な選書実態に始まって、神奈川県海老名市では奇妙な独自の書籍分類方法によって利用者が大混乱したことなどから、CCCと共同運営している図書館流通センター(TRC)が離脱を検討していると発表、その後共同運営を継続することになったが、不安を露呈した。また、個人情報保護の観点から必須条件であるPマークを指定管理者に選定された後で自主返上していたことが明らかになり、市民から運営に疑惑の目が向けられている。

 その結果、市民からはCCCの図書館運営があまりにもずさんとして、武雄市で2件、海老名市で1件、計3件もの住民訴訟を起こされているのである。

 それらの根本的な問題が何ひとつ解決されていないなかで「第3のツタヤ図書館」がオープンするため、多賀城市民をはじめとして関係者たちは不安を抱いている。

指定管理者選定の協議会会長がCCCへ天下り

 そんな多賀城市ツタヤ図書館に関して、新たな疑惑の情報をつかんだので紹介したい。

 ある関係者が、こう打ち明ける。

「新図書館の館長になる人物は、元は市の教育委員会の委員でした」

 つまり、指定管理者を選定する側の公務員が、その選定した民間業者に就職したのだ。これが本当だとしたら、相当にスキャンダラスな事件である。ツタヤ図書館への世間の注目度が高いなかで、あからさまな天下りをするのだろうかと半信半疑で調べてみると、驚きの事実が判明した。

 現在、新図書館準備室長を務める「CCC 行政サービス企画カンパニー 図書館事業部」の照井咲子氏は、3月21日のリニューアルオープンと同時に新図書館の館長に就任することが決まっている。

 内情を知らない方は、「CCCの本社から派遣された図書館運営のプロに違いない」と思われるかもしれない。ところが実は、照井氏はCCCが指定管理者に正式決定した14年6月13日の2週間前まで、多賀城市立図書館協議会会長だったのである。

 多賀城市教委によれば、照井氏が多賀城小学校校長と兼務するかたちで図書館協議会の会長に就任したのは12年2月。その会長職を2年間務めたあと定年退職し、約1年間ほかの自治体の教育委員会に嘱託で勤務し、なぜか昨年4月にCCCへ入社している。そして同年10月からは準備室室長に就任している。

 時系列で整理すると、以下のようになる。

・12年2月1日、照井氏が図書館協議会会長に就任
・14年5月31日、退任
・14年6月13日、CCCが新図書館指定管理者に決定
・15年4月1日、CCCが新図書館準備室を開設、同時に照井氏がCCC入社
・15年10月1日、照井氏が新図書館準備室室長に就任
・16年3月21日、照井氏・市立図書館新リニューアルオープンと同時に館長就任予定

ツタヤ図書館、市側の元図書館協議会会長がCCC天下り疑惑…新館長に就任の画像2

 特に注目したいのは、CCCが指定管理者に決定するまでの2年間、照井氏が図書館協議会の会長職にあったという事実だ。

 図書館協議会とは、委員たちが定期的に会合を開き図書館のあり方について意見をまとめて答申する、市立図書館長の諮問機関だ。その会長だった人物が、新図書館の指定管理者に決まったCCC社員になっているという事実は、今後議論を呼ぶ可能性もある。

 約1年のブランクを経ているとはいえ、図書館運営を全面的に委任された民間企業の一社員として就職しているのだ。

天下りは“たまたま”

 天下りといえば、高級官僚が退官後、自分の所属していた役所が管轄する法人へ役員として再就職し、高額な報酬や退職金を受け取るケースを思い浮かべるが、地方の自治体でも、公務員が事業委託で関連のあった民間企業へ転職することは、便宜供与の見返りと疑われかねない。

 前出の関係者は、こう指摘する。

「図書館協議会の委員のなかには、運営を民間企業に任せることに反対し、市の直営のままでいいという意見を言う人もいました。ところが、市はそのような意見を無視して、強引にCCCを指定管理者に選定しました」

 図書館の指定管理者にCCCを選定したのは選定委員会だが、決定に至るまでに議論を重ね、選定委員会に意見を答申した図書館協議会の役割は大きい。

「最終的にCCCを指定管理者とする方向に導いた図書館協議会の会長がCCCの準備室長となり、今度は図書館長となるのです。こんなおかしな話があるでしょうか」(前出関係者)

 そこで、照井氏本人に直撃し、天下りの事実について質問したところ、次のような答えが返ってきた。

「天下りなんて、とんでもない。市長さんから、『新しい図書館をつくるために、ぜひ力を貸してほしい』と要請されまして、いろいろと考えました結果、引き受けただけです」

 また、CCCの広報も天下りについて否定する。

「今回、多賀城市立図書館の運営を行うに当たっては、子供たちの社会教育に力を発揮できる人物を館長に据えたいと考えていたが、そういう人材が社内にはいなかったので多賀城市に相談していたところ、何人かの候補者を紹介してもらった。その数名を面接して、そのなかで照井氏が最も適任と判断して就任を要請したのであり、図書館について特別な権限を持っていた人物を一本吊りで採用したわけではない。その時期に会長職にあったのは事実だが、それはたまたまそうなっただけである」

 さらに、市教委は関与そのものを否定している。

「CCCのほうで採用されたので、CCCがどういう考えで採用されたのか、こちらではわからない。協議会の委員が退職後何年間は、関連企業に就職してはいけないといった内規はないため、そもそも天下りといえるかどうかわからない」

 あくまでも、最適な人物を探した結果、“たまたま”選定する立場にあった図書館協議会の会長だっただけということだ。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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