やはりアベノミクスの頼みの綱は、日本銀行と株式市場のようだ。
年明け以降、かねてより懸念されていた中国経済の先行き不安や原油相場の急落によって、東京株式市場は下落に次ぐ下落に見舞われていた。だが、1月末に決定された日銀の黒田バズーカ第3弾、マイナス金利の導入によって一転急反発を演じた。重要閣僚の金銭醜聞による辞任、停滞感が強まる国内景気、伴って下げ続ける株価と、手詰まり感が強まっていた安倍晋三首相も一旦は安堵したのではないか。
しかし、3日の東京株式市場の日経平均株価終値は、前日より559円43銭安となる1万7191円25銭と一気に下落。早くも黒田バズーカ第3弾は不発との評価も広まっている。
それにしても奇異に映るのは、投資家や市場関係者はもちろん、マスコミからも正面を切った黒田東彦日銀総裁への批判がほとんど見られないことだ。長く低迷を続けていた株価をここまで浮揚させたことは事実だが、そのために実施してきた横紙破りの手法はどうであろうか。
日銀自らがETF(上場投資信託)を大量に購入する株価指標の高値維持策などは、実体経済の消長を映す市場の機能を明らかに歪めるものだ。証券関係者からは「日銀が市場全体の仕手筋(投機グループ)になったようだ」と揶揄する声も聞かれるが、スケールこそ異なるものの、サプライズによって投資家を操るパターンは似通っており、品位は感じられない。
平成に入ってからこの30年近く、日銀総裁は失態を演じ続けてきた。実態からかけ離れたバブル景気の容認、バブル潰しと称する金融引き締めのあげくに大不況、英国経済誌に最も無能と酷評される札付きの投機ファンドに自己資金を預託、無為無策のまま現状維持に固執――。少なくとも名総裁と呼べる者が現れなかったことは明らかだろう。
金融の事情に通じる経済記者は、日銀とマスコミの関係について次のように解説する。
「第13代総裁に記者経験のある深井英五が就任した例や、時事通信OBが副総裁として迎え入れられた例もあり、マスコミは日銀に親近感を感じている。また、日銀総裁は長く大蔵省(現財務省)の事務次官経験者に占められたことから、日銀は大蔵省の半植民地といわれていた。日銀プロパーは、退職後の天下り先でも大蔵省とは明らかに格差をつけられていた。特有の判官贔屓も働いているのだろう」