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老後資金、1億7千万でも貧困転落の恐れ…40代で住宅ローン借入れは危険

文=牛嶋健/A4studio
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老後資金、1億7千万でも貧困転落の恐れ…40代で住宅ローン借入れは危険の画像1「Thinkstock」より

 今国会、ついに厚生労働省より提出されることになった年金改革法案。俎上に載っているのは、賃金や物価の上昇に応じた年金額の伸びを毎年度0.9%ほどに抑える仕組みの「マクロ経済スライド」だ。

 少子高齢化によって、保険料の払い手が減っていく将来の年金制度を崩壊させないため、社会状況に合わせて年金受給額を調整するマクロ経済スライドが2004年に導入された。しかし、デフレ状況下ではマクロ経済スライドは実施できないため、これを強化していくことが争点となり3月11日、公的年金の改革法案を閣議で決めた。改正案では、物価が上がらないデフレのときに見送った分を、次の年度以降に繰り越せるようにする。景気が良くなって物価や賃金が大きく延びた年にまとめて減らせるという「繰り越し方式」にとどまっている。

 2月15日の衆議院予算委員会で、株価の下落によってGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用が悪化したときは年金の給付額が減額されると安倍晋三首相が認め物議を醸した。その波紋が広がりを見せるなか、現役世代の老後の暮らしについて不安を覚えている方も多いだろう。

 昨年12月15日付の日本経済新聞には、そんな現役世代の不安をさらに増長させるような記事が掲載された。それは『必要資金は1億円、就労の壁取り払う』という記事だ。

「ファイナンシャルプランナーの井戸美枝の試算では、60歳以降に必要な生活資金は夫婦2人で1億1720万円。単純計算で30年前よりも2千万円ほど増えた。一方、退職金・年金は大企業平均で約7千万円。不足する5千万円弱は自分で用意する必要がある」(日本経済新聞記事より)

 この記事の中では、老後の資金が足りず働かざるを得ないが、働きすぎて年金の受給額を減らされてしまうことを「就労の壁」と称しているが、そもそもこの井戸氏の試算による老後資金1億1720万円は、大企業に勤めている人を除いて、一般的な労働者では不可能に近い金額に感じられる。いったい、どのように計算をしたものなのだろうか。

 そこで、上記記事で老後資金の試算を行ったファイナンシャルプランナーの井戸氏に、現役世代の老後に対する不安をどう解消すればいいのか直接話を聞いた。

老後資金は本当に1億円も必要なのか

–夫婦の老後資金に必要な額が1億1720万円というのは本当でしょうか。

井戸美枝氏(以下、井戸) 1億1720万円は、かなり余裕を持って算出した額です。男性が88歳、女性が95歳まで生き、また平均的な健康寿命と余命から男女ともに10年前後分の介護費や医療費を想定しています。さらに、有料老人ホームに入居する場合、一時金として3000万円ほどかかるケースも考えられます。これらをすべて計上すると1億1720万円になり、その前に亡くなられたり、健康寿命の期間が短ければもちろん試算も変わってきます。「この額さえあれば老人ホームなどにも入ることができ、子どもたちの世話にならずに暮らせるはず」という金額なのです。

–退職金・年金が7000万円としているが、この内訳を教えてください。

井戸 大企業でも、現在の退職一時金は2000~2500万円くらいが一般的です。もちろん企業の業績により増減もあり得ます。老齢基礎年金や老齢厚生年金、企業年金などの毎月の受給額が大体、夫婦で20~25万円。20年間、毎月受け取れると考えると4800~6000万円程度で、そこに退職一時金を加えて約7000万円という計算です。

 ただし、この計算は夫婦ともに20年生きていた場合です。もしも夫に先立たれてしまった場合、残された妻は夫分の老齢基礎年金と企業年金はもらえなくなり、老齢厚生年金の75%である遺族厚生年金と自分の老齢基礎年金しか受け取れなくなってしまいます。こうなると一気に月々の年金受給額が減ってしまい、いわゆる下流老人に転落してしまう可能性が大きくなります。

 また、年金の受給額もマクロ経済スライドが強化された場合、長いスパンで見ると年金の価値が1000万円くらい目減りしてしまうかもしれません。安心して暮らすならば、老後生活に入る前にある程度の貯蓄が必要です。

50代に襲いかかる「親の介護」「教育資金」への備え方

–老後のための貯蓄をする上でアドバイスはありますか。

井戸 現在、働いている現役世代の方々は、60歳を過ぎても働くことができるくらい元気な人が多いです。そこで、65歳まで働くことを前提として考えても、少なくとも55歳までにローンや借金などを返済しきっていないと、老後資金貯蓄のラストスパートができなくなります。

 そう考えると、40代になってから家を買ったり子どもが生まれて20年以上の支払いがある住宅ローンや教育ローンなどを借り入れると、かなり危険だということがおわかりになるでしょう。

 また、50代の後半ともなると、親の介護という問題が起こってくる可能性も大きいのですが、ここで介護離職などをしてしまうと、絶対にお金が貯まりません。親には介護保険を組んで介護費はそこから捻出し、自分は自分のための老後資金を貯めなければなりません。

–では、若い現役世代へのアドバイスはありますか。

井戸 50代への備えとして、多くの30代は保険に加入しすぎている傾向があります。毎月の収入の1割以上を保険料の支払いに充てていれば非常に貯蓄しづらくなります。三大成人病を保障する医療保険などは保険料も高額になりがちですが、その多くは60日間入院した場合、60万円を給付という程度です。それよりも、100万円貯蓄しておいて、もしもの時に備えたほうがお金をフレキシブルに使えます。お子様がいる場合は、万が一に備えて死亡保険には加入しておくべきですが、それ以外の保険は入る必要があるのか見直しをお勧めします。

 保険の見直しをして、加入できる資格があれば、所得税や住民税の節税メリットがある確定拠出年金も検討しましょう。また、投資信託で分散投資をおこない、早めに積立を始めることをお勧めします。どちらも積立てるというところがポイントで、気がついたら100万円単位の貯金額となっていたりします。積立投資信託は5000円程度から始められるものもあるので、自分に合った額を毎月投資すればよいでしょう。

 30代のうちから少額でもコツコツと貯蓄をしておけば、50代後半にはある程度の額になっているはずです。これを運用して5000万円程度まで増やせれば、老後の安心感は段違いでしょう。とはいえ、老後への貯蓄を優先するあまり、子どもとの旅行などレジャーのためのお金を出し渋るのも考えものです。貯蓄と支出をきっちりと分けることが重要です。

–ありがとうございました。

 何が起こるかわからない老後の生活。1億1720万円の老後資金を用意することは簡単ではないが、まずは少しずつでも貯蓄を始めることが重要だ。
(文=牛嶋健/A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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