トヨタ、新型「最上級」プリウスがスゴすぎる!ゴルフを圧倒する燃費と走行距離
いよいよプラグイン・ハイブリッド(PHEV)が時代の主役になりそうだ。
ハイブリッドで世界を制覇したトヨタ自動車も、これまではPHEVには少し消極的だったように思う。しかし、3月18日から4月17日まで開催されているニューヨークモーターショーに登場した四代目新型プリウスのPHEVモデルには、「プリウスプライム」という名前が与えられている。プライムとは「最上級の」「一番重要な」という意味。日本ではプリウスPHEVとして市販されるとみられるが、電気モーター(EV)走行距離は60km強(日本の予測値)と十分に長い。先代プリウスPHEVよりも本気モードで開発されていることは明らかだ。
注目すべきは、さまざまな部分でプリウスと差別化されていること。デザインも大胆なスタイルを提案しているが、驚いたのはリヤの長さ。プリウスプライムはバッテリーをリヤに搭載するので、後部衝突の安全性を確保するために全長が伸びているのである。そのままハッチを閉めるとバンパーだけが出っ張って見えるので、リヤハッチそのものがカーボン製で分厚くできている。これで後部のデザインの違和感もなくなり、すっきりと見えるようになった。さらに、リヤハッチのガラス中央部が丸く凹んでおり、セクシーなフォルムに仕上がっている。空気力学上では、ほんのわずかに効果があるそうだが、それ以上に、デザイン的に大きな象徴となっている。
走りの面でも、先代プリウスPHEVを凌駕する。実はバッテリーの重量分だけ加速が鈍るのではと心配していたのだが、なんと2つのモーターを同時駆動で使えるようになったといい、これなら瞬間的には3リッターエンジン並みのトルク感で走れそうだ。デザインにおいても走りにおいても普通のプリウスとの差別化が図られているので、先代プリウスPHEVのような失敗はないだろう。
極めて優れた燃費性能
気になる燃費についても、トヨタの本気が感じられる。アメリカでは、電気自動車(EV)やPHEVの燃費は「MPGe」で表示される。これはガソリン車の燃費表示「MPG(マイル・パー・ガロン)」を元にしており、その計算式は複雑だが、電気エネルギーをガソリンに換算している点がユニークだ。アメリカ政府EPA(環境保護局)の燃費数値はいろいろなパワー・プラントを直接比較できるので、ユーザーにはわかりやすい。
新しいプリウスプライムの混合燃費は、独フォルクス・ワーゲンのゴルフGTE(PHEV)の116MPGeを超える120MPGe(あるいはそれ以上)を実現しているらしい。日本で一般的に使用されているkm/Lで燃費換算すると、約49km/Lとなる。日米では走行モードが異なるので、国内で市販する場合はさらに優れた燃費を謳えるだろう。しかも、EV走行で時速135kmを出せるので、使い勝手も良さそうだ。
ただし、PHEVには落とし穴もある。燃費については、ドイツでは電気で走るときにCO2を限りなくゼロに近い数値で計算するので、カタログに記載される燃費が非常に優れている。しかし、使用する電気が何からつくられるかを考慮しないと、正確なCO2排出量はわからない。
使い方によってもCO2排出量は変わってくる。実際に日本でゴルフGTEを使ってみたのだが、自宅に設置した200V電源で毎日充電すると東京の都心は電気だけで走行が可能だ。首都高速に合流するような場面ではアクセルをグッと踏み込むとエンジンが始動し、鋭い加速も味わえる。昨今都心で少なくなったガソリンスタンドを探す手間も省けるのはありがたい。小まめに充電すればPHEVはとても便利なのだ。
だが、泊まりの旅に出ると、その利便性は十分に享受できない。バッテリーが減ったら充電しながら走る「チャージモード」を使うことになるが、そのときの燃費は決して良くないのである。つまり、PHEVは無条件で環境に優しいというわけではない。都市の中心部を走るときには都合がよいが、ロングドライブには向いていないかもしれない。都市部限定であれば、電気自動車でもよいのかもしれない。
また、ヒーターなどを使う冬場だと、電気モーター走行距離はカタログ値の半分以下になる。せっかく充電しても、わずかしか電気モーター走行できないのでは、ユーザーは充電を面倒に感じてしまうだろう。実は、チャージモードではゴルフGTEは普通のゴルフよりも燃費が悪い。それもそのはず、空っぽの電気の貯金箱を運んでいるようなもので、その重量はバカにならない。つまり、ゴルフGTEをうまく使うには小まめな充電が欠かせないのだ。その意味では、30kmという電気モーター走行距離は微妙ではないだろうか。
昨今はゴルフに限らず、さまざまなメーカーからPHEVが登場している。背景にあるのは、2020年に強化されるCO2排出規制と、都市中心部におけるゼロ・エミッション推進の動きだ。日欧を中心としたPHEV競争の激化も懸念されるところではあるが、規制対策重視の欧州型PHEVと、環境対策と実用性を兼ねた便利な乗り物としての日本型PHEVの勝負では、日本に分があるといっていいだろう。
プリウスプライムはゴルフGTEと異なり、2つのモーターを持ち、電気モーター走行距離も2倍近い。バッテリーの容量から計算しても、いわゆる「電費」は新開発のバッテリーを採用するプリウスのほうが優れている。価格もゴルフGTEより安いので、ゴルフGTEで失望した人でも受け入れることができるかもしれない。
個人的には、充電が面倒なので非接触の充電システムが実用化するまでPHEVや電気自動車には手を出したくないというのが正直な気持ちだ。それでも、新型プリウスPHEVを日本で早く乗ってみたいと思っている。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)
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