3月16日に閉幕した中国・全国人民代表大会(全人代)で発表された「五カ年計画(2016~20年)」では、新たに北京から台湾・台北へ最高3000億元(約5兆3000億円)の予算と10年の歳月をかけて高速鉄道を建設する、「京台鉄道」の草案が提出された。
中国では、15年6月に北京から福建省の福州まで2000km超を結ぶ高速鉄道が完成しているが、福州からさらに全長130kmに及ぶ海底トンネルを経て、台湾の新竹市、そして台北まで結んでしまおうという壮大な計画だ。英仏海峡トンネルの38km、青函トンネルの23kmを大幅に上回る海底トンネルの建設には疑問符がつくが、中国ならやりかねない。
3月7日付台湾国際放送によると、台湾の交通部は「寝耳に水。そうした計画は、まったく知らされていない。交通機関の問題ではなく、国家の政策にかかわる問題だ」として、中国側の一方的な計画だったと強調した。台湾メディアも「大陸が統一の準備を始めたというサインだ」と警戒感をあらわにし、インターネット上でも「飛行機でやってくる大陸人にも手を焼いているのに、鉄道なんて通ったらおしまいだ」「いずれ東京まで鉄道でつなごうとしている」など、反対する意見が大勢を占めている状況だ。
一方で、「こうやって緩やかにひとつになれば、血が流れないで済む」「大陸とつながれば、インドやネパール、タイの市場にも鉄道でアクセスできる。ビジネスチャンスになる」といった肯定的な声も少数意見ではあるが聞こえてくる。
この計画の裏には中国政府のどのような意図があるのか。北京駐在の大手新聞社特派員はこのように語る。
「大陸からすれば、台湾まで鉄道を通すことで経済的支配力をより一層高められますし、台湾から鉄道で直接ユーラシア大陸にアクセスできるようになれば、台湾経済にとっても悪いことではありません。台湾の親中経済界は賛成しているのではないでしょうか。中国からユーラシア大陸内陸部への鉄道はすでに複数のルートがあり、2年前には中国とスペインを結ぶ鉄道貨物路線が開通しています。習近平政権のもくろむ『一帯一路』(中ロのユーラシア大陸での支配力強化)に台湾を組み込むことが狙いでしょう」
一方、中国政治に詳しいフリーライターの吉井透氏は、「日本を意識した計画だ」と指摘する。
「九州と韓国・釜山を結ぶ日韓トンネル構想は1980年代から止まったままですが、日韓関係が好転し、北朝鮮の崩壊も現実性を帯びてきた今、10年後や20年後を見据えると、実現する可能性も少なくありません。日本から韓国、北朝鮮、モンゴルなどを経由してロシア、ヨーロッパに向かう“中国を飛ばした”鉄道が開通すれば、ユーラシア大陸で中国の影響力は弱くなり、安全保障上の問題にもなってきます。そのため、台湾を抱き込んで先手を打ったという見方もできます」
確かに、日本から中国を経由せずにヨーロッパへアクセスできる鉄道ができれば、中国にとっては脅威だろう。今回の京台鉄道計画には、日中間の地政学的な覇権争いがあるのかもしれない。
(取材・文=五月花子)