自分の女性器をモチーフとした作品を「芸術」と主張して警察と戦った「ろくでなし子」こと五十嵐恵氏が、一部無罪を獲得した。
わいせつ電磁的記録頒布やわいせつ物公然陳列などの罪に問われた行為は、スキャンして作成した3Dプリンタ用データを不特定多数の人に送信したこと、及び「デコまん」という女性器をかたどった作品を公の場で展示をしたことだった。東京地方裁判所は、データの提供行為については有罪としたものの、作品展示については無罪とする判決を下した。デコまんについては、「ポップアートとして認められる」との考え方を示しており、五十嵐氏の主張が認められた。
一方、悔しい思いをしていると考えられるのが、一緒に逮捕されていた作家の北原みのり氏だ。彼女は自身が経営するアダルトグッズショップに、五十嵐氏と「共謀」するかたちでデコまんを展示したことが、わいせつ物公然陳列罪に問われた。しかし、北原氏は罪を認めて有罪判決をすでに受けてしまっている。今回の結果を見れば、真正面から戦っていれば、無罪を獲得できた可能性が高かっただろう。このように明暗が分かれてしまった理由は、ついた弁護士の方針の違いにあったようだ。
北原氏の代理人である村木一郎氏は、「わいせつ物とは思っていなかったけれど、警察が認めるなら仕方がない」という方針を採用し、「真正面から戦わなくていい」と助言していた。村木氏は刑事事件を専門とし、著名な事件をいくつも担当してきた定評ある弁護士だ。
警察に身柄を取られた状態が長く続けば、日常の業務や自身の評判にも大きな悪影響がある。北原氏は、警察と戦うことが自身のアダルトグッズショップの経営に差し障りがあると考え、「ゆるく戦う」ことを選択した判断には合理性があるといえる。
しかし、結果的に「主犯格」である五十嵐氏が無罪となり、展示場所を提供しただけの北原氏が有罪というチグハグな結果になってしまったのは痛恨の極みだ。今回ばかりは、「腰がひけた対応」が弁護活動としても裏目に出てしまった。
そもそも、自分だけ罪を認めて五十嵐氏の梯子を外すことになった北原氏に対しては、批判も上がっていた。ろくでなし子弁護団の中心的存在である山口貴士弁護士はTwitterで、北原氏のスタンスに一定の理解を示しつつも、「『なし子さんは頑張って』や『一部無罪良かった』程度の共感を示す言葉すら聞こえて来ないのは不思議です」と皮肉をぶつけている。
いったん起訴されてしまえば有罪率99%といわれる刑事裁判を最後まで戦い抜き、無罪を勝ち取った弁護団の立場としては、保身を優先して逃亡した「共犯者」陣営に対して一言物申したい気持ちだったのだろう。
(文=則本正義/フリーライター)