「欧米と比べて日本は~」という言い方をされることがよくある。しかし、この映画を観れば、ヨーロッパとアメリカは社会システムや文化において大きく異なり、「欧米」とひとくくりにはできないことがよくわかる。その映画は、現在公開中のマイケル・ムーア監督の最新作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』だ。
ムーア監督は『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、『華氏911』(04年)ではカンヌ国際映画祭の最高賞(パルム・ドール)を受賞したドキュメンタリー作家であり、一流のジャーナリストである。今作は、ムーア監督が主にヨーロッパの国々を訪問し、その国の優れた生活習慣や政策を取材し、アメリカでも取り入れたらどうかと提言するという内容である。
最初に訪問するのはイタリア。ムーアを自宅に招いた夫婦は、年に30~35日もの有給休暇があって、消化できなかった休暇は翌年に持ち越せると話す。そのイタリア人男性は「イタリア人にとって、アメリカに住むのが夢だ」と語るが、ムーアが「アメリカには有給休暇の法的制度はなく、一般的な会社ではゼロ」と話すと、男性は驚きのあまり黙ってしまう。ブランド品の工場では、昼休みが2時間あって、自宅に帰ってランチを食べる様子が映し出される。
フランスでは小学校の給食を取材。おいしそうなフレンチのフルコースだ。コカ・コーラなんて誰も飲んでいない。ムーアは「フランスなのにフレンチフライは食べないのか」とジョークをかます。アメリカの給食を見せると、子どもたちが「超マズそ~」と拒否反応を示す様子がおかしい。
スロベニアの大学は授業料が無料。アメリカで授業料が払えなくなり、この国に来て学んでいるアメリカ人学生も登場する。アメリカでは多額の借金を背負いながら大学を卒業する若者が珍しくないが、スロベニアには返済しなければならない奨学金などは存在しない。
アイスランドでは1980年に世界初の女性大統領が誕生し、完全な男女平等が実現している。金融立国で、リーマンショックのときは影響をもろに受け、国内の銀行はほとんど国有化される事態になった。しかし、それでも女性が経営の実権を握っていたひとつの銀行だけは生き残ることができた。男は野心的かつ自己中心的で、利益追求のためには一攫千金のリスクを取りたがるが、女性は総じてリスクを取りたがらない。子育てのために協調を選び、利他的だというのだ。そして、この国では男女同権が保証され、会社の役員は40%から60%が女性でなくてはならない。