世界一の原子力発電大国を目指して爆進中の中国で、安全性を度外視した「ゴリ押し稼働」の一端が明らかになった。
広東省台山市では、中国国有の中国広核集団とフランス電力の合弁による「台山原発」が新たに建設されている。同原発が擁する2機の原子炉は、アレバNP、フランス電力、シーメンスが共同開発したEPR(欧州加圧水型炉)と呼ばれる新型だが、これがいわくつきなのである。
昨年4月、アレバNPが行った圧力試験で、EPRの屋根と底の部分に脆弱性が見つかったのだ。これにより、採用を決めていたフィンランドとフランスの原発建設計画が中断している。
ところが、台山原発では建設を続行し、2機とも完成させたのだった。
今年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で採択された第13次経済5カ年計画では、2020年までに原発による発電量を5800万キロワットに増加させることが盛り込まれた。現在の2倍以上に相当するこの発電量を実現するためには、年間7~8基を新たに稼働開始させることが求められる。さらに30年までには、中国は原発の稼働数と発電能力の両面で世界一となるとみられている。
これほどまでに原発を推進させる中国には、れっきとした魂胆がある。広東省地方紙の社会部記者によると、「国内の電力確保ももちろんだが、中国政府はそれ以上に原発輸出ビジネスを見据えている。すでにイギリスやルーマニアへの原子炉輸出が決まったが、現在もさらに多くの国と商談中」という。
国の政策に逆らうことのできない中国では、問題が発覚しながら稼働へと進む台山原発に異議を唱える者はいない。しかし、同原発からわずか130キロで、有事の際には巻き込まれる可能性がある香港では、市民団体らによる反対運動が展開されている。これに対し中国広核集団側は、「稼働までには数年にわたっての十分な安全検査を行う」と答えた。
ところが、香港独立系メディア「傳真社」は、その言葉がでまかせであることを暴露している。5月26日付で、「中国側が、最低2年は必要とされる安全検査を1年未満に短縮し、来年中に原発を稼働させるよう現場に要請した」という、同原発の建設に関わるフランス人技師の証言を伝えたのだ。
問題が指摘されている新型原子炉を、十分な安全検査を経ないまま稼働に踏み切ろうとする危険極まりない姿勢が明らかになったわけだが、これも氷山の一角だろう。中国では現在、計31基の原発が稼働中で、さらに23基が新設中だが、安全性においてはいずれも同様の状況であるとみられている。
(文=牧野源)