日本経済をコントロールする、米国の強烈な「制裁措置」…円安を断固阻止
アベノミクスの原動力は「円安・株高」といっても過言ではありませんが、2015年6月に株も為替もピークを打った気がしてなりません。円高がいいのか、円安がいいのかは、生活者、企業のいずれの立場に立つかによってその見方は変わりますが、米国は昨年までの円安/米ドル高を手放しで望んでいるわけではないと思われます。
少々古い出来事になりますが、日本が大型連休の真最中だった4月29日、米国はドイツ、中国、韓国、台湾とともに日本を「為替の監視国」に指定しました。これは2月24日に成立した米国の貿易円滑化・権利行使法に基づきまとめられた、半期為替報告書に記載されました。
報告書で為替の監視国に指定される条件は以下の3つです。
・対米貿易黒字が200億ドル超(2兆円:1米ドル=100円換算)
・経常黒字が国内総生産(GDP)比3%超
・持続的かつ一方向への為替介入が、年間ネット外為売買額ベースで対GDP比2%超
この3つすべてに当てはまる国は存在しませんが、日本は2015年(暦年)、対米貿易黒字が686億ドル、経常収支が16.4兆円で対GDP比3%を超えているので(2016年度第1四半期GDP2次速報値ベース)、監視国に指定されたのです。
円安は期待薄
日本銀行が4月の金融政策決定会合で追加緩和に動かなかった(動けなかった)のは、この報告書が公表される前に米国政府から日本政府・日銀に打診があったのではないかとの推察もなされています。打診の有無はともかく、為替監視国に認定されたということは、日本が望む「円安」を米国が望んでいないと考えられるわけです。
麻生太郎財務大臣は、過度な為替の動きがあった場合は介入も辞さないとたびたび述べていますが、監視国に認定されたことから介入の実弾(金額)は少額に留まらざるを得ません。米国の3つの監視国指定条件に該当しないようにするためには、10~15兆円程度が限度だといわれています。過去の介入では単独国の介入だけでは効果は一時的に過ぎず、各国と協調した介入を行わなければトレンドを転換させることができませんでした。
ちなみに、10兆円を超える多額の介入により3つの条件を満たした場合、米国大統領は財務長官を通じて2国間協議を開始し、1年経過した段階で相手国が為替レートの過小評価や黒字解消のための適当な政策を行っていないと判断すれば、米大統領は以下のいずれか1つ以上を実施するとしています。
・米国のODAを扱う機関であるOPIC(海外民間投資公社)への当該国のアクセス拒否
・米国の政府調達の際に当該国を排除
・IMF(国際通貨基金)への監視強化の要請
・適切な政策を採用しないことを踏まえた上で、通商協定を締結するか、通商協定交渉に参加させるべく、米国通商代表部に指示
ようは「制裁措置」が行われるというわけです。日本銀行の金融緩和は介入とは異なるものの、その狙いが「円安」にあることは介入となんら変わりありません。日本銀行もサプライズを伴う大胆な行動ができなくなったと思われる今、日本が望む円安は期待薄といわざるを得ません。
いい換えれば、「円安に頼らなくても日本経済が成長できるような政策を行え」と米国が日本の尻をたたいているように見えてしまうのは、気のせいでしょうか。
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)