「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す」――。
1956年の日ソ共同宣言から60年。節目の年となる今年、12月に山口県で安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と会談することで、北方領土返還への期待が高まっている。返還は本当にあるのか。
メディアは盛んに特集を組む。テレビ番組『クローズアップ現代プラス 急接近!日本とロシア交渉の内幕に迫る』(NHK/9月14日放送)は「極秘文書を入手した」としていたが日本側の経済協力の内容ばかり、ロシアからの島の返還については言及されなかった。
また、9月16日放送の『プライムニュース』(BSフジ)の特集では、ゲストの袴田茂樹新潟県立大学政策研究センター教授は、返還に否定的な見方を示した。支持率が低迷していたプーチン大統領はクリミア併合で領土を拡大して「強いロシア」を打ち出し、一挙に支持が高めたため、領土を失うようなことをするはずがないとの主旨。
筆者も同感であるが、袴田氏の対談相手だった飯島勲内閣官房参与は妙に楽観的で「日本の帰属を認めた上、しばらく実効支配はロシアということも考えられる」などとし、「沖縄だって返還された」と話した。だが、米国軍が軍事基地として駐留し戦後四半世紀を経て返還された沖縄と、70年以上もロシアの一般住民が住み続ける北方領土とでは、まるで違う。島が故郷のロシア住民を追い出せば、プーチン氏は大統領の椅子から滑り落ちる可能性もある。
9日1日付朝日新聞は、北方四島のひとつである色丹島の現状を報じる特集を組んだ。よく読むと、「現地に入った朝日新聞ウラジオストク支局の助手の情報を元に」とある。助手はロシア人だろう。日本人記者は現地に入っていないと推察される。ロシア側のビザを取って島に入ると、「日本固有の領土を外国と認めることになる」と外務省から睨まれるのだ。
マスコミの現地取材は進まず
戦後、北方領土に最初に足を踏み入れたマスコミは北海道新聞の記者である。ビザを取っていた。90年元日の新聞で「世紀の特ダネ」として報じ、同紙は外務省記者クラブの出入り禁止処分となったが、情報筋によると、実は当時外務省欧亜局のソ連課長だった東郷和彦氏が同紙の潜入に助力していたといわれている。
道新の快挙は92年に始まった「ビザなし交流」の直前である。その頃、ピースボートなども現地入りした。しかし2009年に札幌テレビ(STV)がビザで択捉島に入ると、外務省や北海道知事が抗議を申し入れ、同社は謝罪した。