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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

慰安婦問題の賠償責任は韓国政府にあることを知らない韓国人…日本の強硬姿勢に動揺

文=渡邉哲也/経済評論家
慰安婦問題の賠償責任は韓国政府にあることを知らない韓国人…日本の強硬姿勢に動揺の画像1韓国・釜山の日本国総領事館前に設置された少女像(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 韓国従軍慰安婦問題が再燃している。釜山の日本国総領事館前に慰安婦をモチーフにした少女像が設置されたことで、日本は駐韓日本大使の長嶺安政氏と釜山総領事の森本康敬氏を一時帰国させたほか、日韓通貨スワップ協定の協議再開を中断するなど、これまでにない強気な姿勢で対抗措置をとっている。

 以前から、慰安婦問題は何度となく蒸し返されてきた。それは、なぜだろうか。1965年、日本と韓国は「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約」(日韓基本条約)を締結して国交を回復したが、同時に「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(日韓請求権並びに経済協力協定)を結んだ。

 同協定において、日本は韓国に残してきた日本の資産の所有権をすべて放棄し、さらに最終的に総額8億ドル(当時の韓国の国家予算の2.3倍)の経済援助を行った。これで、請求権に関する問題は、日韓間で慰安婦問題も含めてすべての賠償義務は韓国側にあるとして「完全かつ最終的に解決」されたことになったのだ。

 しかし、同協定の第3条には「同協定の解釈や実施に紛争が生じた場合は、第三国を交えて協議を行うことができる」と再協議を規定する内容が含まれている。韓国は、これを根拠にして「まだ解決していない」と何度も慰安婦の賠償問題を持ち出してきたのだ。しかし、日本は同協定に則って「完全に解決済み」と言い続けており、平行線の議論がずっと続いてきた。

 この背景には、同協定の内容が韓国側では非公開であったことも関係している。そのため、韓国人は「漢江の奇跡」をはじめとする経済発展は日本の支援によって実現したものであり、同時に慰安婦問題の賠償義務は韓国政府にあるということを、05年の公開まで知らなかったのだ。

 そもそも、韓国政府が「日本からこれだけのお金をもらいました。これを慰安婦の方の補償や国の発展のために使いましょう」とアナウンスすれば問題はなかったのだが、日本側も韓国の非公開という姿勢を容認してしまっていた部分があり、対応が甘かったといわざるを得ない。

韓国の慰安婦像設置は国際ルールを無視した蛮行

 もうひとつ、大きな問題がある。本来、国際的な条約や協定では英語で正文がつくられ、その対訳というかたちで日本語訳や韓国語訳がつくられる。何か問題が生じたときには、英語の正文が協議のベースになるわけだが、日韓請求権並びに経済協力協定は英語の正文がなく日本語版と韓国語版しか存在しない。そのため、英語圏をはじめとする世界の人たちに解決済みであることを証明するエビデンスとしては、弱いものになっていたのだ。

 しかし、このままではいつになっても問題が解決しない。そこで結ばれたのが、15年12月の日韓外相会談における慰安婦問題に関する「日韓合意」だ。これは、慰安婦問題について両国が「最終的かつ不可逆的に解決」することで合意したものである。

 この日韓合意では、日韓請求権並びに経済協力協定の3条に則って、第三国であるアメリカが「保証人」として仲裁に入った。そして、韓国側に財団をつくり、日本は賠償金ではなく「支援金」として10億円を拠出することが決定された。

 日本はすでに10億円を支払っており、契約を履行している。そして、慰安婦および関連団体に対する支援義務、今回の問題でいえば少女像を撤去する責任は韓国側にあるという構図だ。

 この日韓合意の時点で、「日本はこれ以上謝ることはない」というのが世界の共通認識であり、韓国が再び慰安婦問題を持ち出してくることがあれば、それは国際ルールを無視した行為である、という土壌ができたわけだ。

慰安婦問題で韓国経済の息の根が止まる可能性も

 今回、日本が強い姿勢で抗議の意を表明しているのは、この日韓合意によって交渉のカードを手に入れたからだ。前述のように日本側は契約を履行しているのだから、「韓国も約束を守れ」というわけだ。

 また、日本はウィーン条約も持ち出して抗議している。同条約には「外交関係」と「領事関係」に関する規定があり、いずれも受け入れ国に公館(大使館や領事館)を保護し、「安寧の妨害」と「威厳の侵害」を防止する措置をとる「特別の責務」があると定めている。

 公館前で抗議活動などが行われる際に警察当局が警戒にあたるのは、これに基づくものである。日本としては、この「安寧の妨害」と「威厳の侵害」に少女像の設置が該当すると主張しているわけで、日韓合意の反古とウィーン条約違反という2つの問題行為を指摘しているのだ。

 韓国は、この日本の強硬な姿勢に驚いている。なぜなら、日本がこのような厳しい対応をとるとは思っていなかったからだ。逆にいえば、だからこそ、これまでは「どうせ折れてくれるだろう」と日本に甘え続けていたのである。しかし、今回は朝鮮日報をはじめとする韓国メディアも「韓国側には勝ち目がない」という論調で、韓国国内からも撤去を求める声が強くなっているのが現実だ。

 また、慰安婦問題から、前述したスワップ協定協議に加えハイレベル経済協議の交渉が止まっているほか、今後はアメリカが求める高高度防衛ミサイル(THAAD)配備の問題もからんでくる。このゆくえによっては、韓国経済は息の根が止まる可能性も高いのだが、その詳細は次稿に譲りたい。
(文=渡邉哲也/経済評論家)

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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