「風邪に特効薬はない」というのは、現代人の常識だ。一方で、「風邪をひいたら、少しでも早く治したい」というのは、日本人、いや全人類にとって共通の願いともいえる。
そんななか、以前からインターネット上で飛び交っているのが「家系ラーメンが風邪に効く」という説だ。昨年11月放送の『雨上がりの「Aさんの話」~事情通に聞きました!~』(朝日放送)では、この話を「発見!お医者さんも驚く究極の風邪薬」として紹介、医師が根拠を示しながら同意したことで反響を呼んだ。
しかし、体によくないイメージのラーメンが「風邪で弱った体に効果的」というのは、にわかには信じがたい。本当に、家系ラーメンは風邪に効くのだろうか。
風邪に効く?家系ラーメンの5つの栄養素とは
まず、家系ラーメンとは、「鶏と豚骨から取ったスープ」「中太モチモチのストレート麺」「チャーシュー、海苔、ほうれん草などの具材」といった特徴を持つ、濃厚な味わいのラーメンのことだ。
元祖は神奈川県横浜市にある「吉村家」で、同店から派生した同系統のラーメン店を総じて「家系」と呼ぶようになった。近年はフランチャイズ展開をするチェーン店も多く、ラーメン業界の人気ジャンルとして勢力を拡大している。
ただ、油はこってり、ボリュームも多めで、濃厚なスープをご飯にかける食べ方がスタンダードにもなっている。そのため、メインの客層は20代などの若い男性だ。確かに、おなかいっぱいにはなるが、風邪に効くかとなると疑問が残るのも事実である。
前述の『Aさんの話』では、「10年間、風邪をひいたことがない」というラーメンマニアのとよつね氏が家系ラーメンを解説し、大阪府吹田市にある家系ラーメン店「武双家」を訪れて常連客に話を聞いている。すると、「風邪をひいたらここに来たくなる」「のどの痛さが和らいだ」というコメントが続出したのである。
家系ラーメンには、麺の固さ、味の濃さ、油の量を調整できる店が多いが、とよつね氏によると、風邪を治すには「やわらかめ、薄め、少なめ」で注文し、卓上にある生姜とにんにくを入れることが重要だという。
番組では、続いて大阪府内科医会副会長で内科医の泉岡利於氏が登場。泉岡氏は家系ラーメンのことを知らなかったそうだが、特徴を分析して「入っている成分が通常のラーメンと違う」と指摘。風邪をひいたときにとり入れたい5つの栄養素「炎症を抑える成分」「白血球の働きを活発にする成分」「粘膜を強化する成分」「身体を温める成分」「殺菌効果のある成分」が満点で含まれていると断言した。
ちなみに、「炎症を抑える」のは豚骨と鶏油に含まれるグリシンなどのアミノ酸で、「白血球を活発に」するのは、ほうれん草に含まれるビタミンCやベータカロテンによる作用。「粘膜強化」は海苔に含まれるビタミンA、「身体を温める」のは薬味の生姜に含まれるショウガオールで、「殺菌効果」も薬味のにんにくに含まれるアリシンの働き。これらが相まって、効果的な作用を果たしてくれるという。
これらの話を聞く限り、本当に家系ラーメンは風邪に効くような気がしてくる。ネット上にも、「実際に試してみたら効いた」という声が多く上がっている。
家系ラーメンと風邪、カギはほうれん草や生姜?
しかし、よく考えてみると、風邪をひいて食欲が落ちているときに濃厚で脂っこい家系ラーメンを食べること自体がつらそうな気もする。なかには、「あの豚骨スープのにおいをかいだだけで、胸焼けしてしまう」という人もいるに違いない。
そこで、食生活コンサルタントで管理栄養士の浅野まみこ氏に聞くと、「普通のラーメンに比べれば、家系ラーメンのほうが風邪予防としての効果は期待できると思われます」という答えが返ってきた。
しかし、それはあくまで、ほうれん草などの具材が乗っていないシンプルなラーメンと比べた場合の話だ。
「家系ラーメンの具材である、ほうれん草に含まれるベータカロテン(ビタミンA)は粘膜を保護する作用が期待できるため、風邪予防にはおすすめの食材です。ただ、ビタミンCはゆでることで半減しますし、海苔1枚に含まれているビタミンAは輪切り人参1枚(3g)と比べても10分の1程度と少量です。トッピング量が少なければ、大きな効果は期待できません。
豚骨と鶏油に含まれるアミノ酸のグリシンは水溶性なので、スープにどれくらい含まれているかがポイントでしょう。ただ、グリシンを多く摂取するためにはスープを多く飲まなければなりません。そうなると、逆にカロリーや塩分のとりすぎになることも考えられます」(浅野氏)
さらに、浅野氏は、アリシンが含まれる薬味のにんにくを評価する。
「アリシンによる殺菌や疲労回復の効果は、風邪予防にいいと思います。生姜も、加熱することでジンゲロールがショウガオールという、より内側から熱を発生させる物質に変わるため、ラーメンに入れるのはいい方法です」(同)
にんにく大量の二郎系ラーメンも風邪に効く?
つまり、風邪に効くかどうかは、ラーメンそのものではなく具材や薬味にポイントがあるわけだ。そうなると、家系ラーメンよりも、たっぷりの野菜やチャーシューが盛られ、にんにくを大量にトッピングできる「二郎系ラーメン」のほうが風邪に効果があるのでは、とも思える。
「確かに、二郎系ラーメンに入っているもやしやキャベツには食物繊維が多く含まれ、油脂の吸収をゆるやかにする効果が期待できます。また、チャーシューとにんにくの組み合わせもおすすめです。豚肉に多く含まれるビタミンB1は、にんにくのアリシンによって吸収率が高まり、疲労回復に効果があるからです。とはいえ、風邪の予防として考えるのなら、ベータカロテン(ビタミンA)が入っていて、カロリーの負担も少ない家系ラーメンのほうがいいかもしれません」(同)
ただし、家系ラーメンにも二郎系ラーメンにも、スープには脂質が多く含まれている。浅野氏によれば、小麦でつくられた麺を大量に食べれば消化に負担がかかるほか、血糖値の急上昇にもつながるという。
「もし、風邪をひいたときに食べるなら、『もやしやほうれん草などの野菜から食べる』『よく噛む』『スープを残す』ことを意識したほうがいいでしょう」(同)
「風邪っぴきだけど、ラーメンが食べたい」というときは、家系ラーメンをチョイスした上で前述の3点を意識して食べれば、回復の一助となってくれるのかもしれない。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)