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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

新築住宅、なぜ3~5階建て激増?「下は貸して、上に居住」が主流に

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
新築住宅、なぜ3~5階建て激増?「下は貸して、上に居住」が主流にの画像1

 住宅業界では空き家が増加する一方、将来的な世帯数の減少を考えると居住用の注文住宅の市場縮小は必至で、それに代わる市場として賃貸住宅が主役になりつつあります。それも、住宅を兼ねた賃貸併用住宅の多層階が注目を浴びていて、その次代の主力市場をめぐる大手メーカーの先陣争いが激化しています。

新設住宅の5割近くを「貸家」が占める

 まずは、図表1をご覧ください。これは、国土交通省が毎月発表している「建築着工統計調査」から、月間の着工戸数と、そのなかに占める「貸家」(賃貸住宅)のシェアを示しています。

 同調査では、大きくは一戸建ての注文住宅などの「持家」、賃貸住宅などの「貸家」、社宅や寮などの「給与住宅」、そして分譲マンションや建売住宅などの「分譲住宅」に分類されています。このうちかつては「持家」が主流で、たとえば1973年には年間着工戸数が約191万戸に達し、うち持家は76万戸台で、全体のほぼ4割を占めていました。しかし、2015年をみると、約91万戸中の28万戸で3割ほどに減少しています。

 それに代わって主役の座を占めているのが貸家なのです。グラフでもわかるように、最近では月間の着工戸数のうち4割以上を占め、5割まで手が届きそうな勢いです。

大手メーカーでも賃貸がトップに

 それには、さまざまな要因が挙げられます。第一には、14年から相続税が増税され、節税対策としての賃貸住宅への注目度が高まっていることが挙げられます。また、収入が増えないこともあって、賃貸住宅を併設することで住宅ローン返済を賃料収入でカバーしたいというニーズもあります。さらに、年金への不安から将来の個人年金の確保といった意味合いもあります。

 いずれにしても、賃貸住宅の比重が大きくなった結果、大手の大和ハウス工業、積水ハウスの決算をみると、いずれも戸建住宅より賃貸住宅の売上高のほうが多くなっています。大和ハウス工業にいたっては戸建住宅のシェアは2割ほどにとどまり、いまや「住宅メーカー」と呼べないほどの変化です。

賃貸住宅の多層階なら単価も高くなる

 なかでも、3階建て以上の多層階化が進んでいます。低層階を店舗や賃貸住宅にし、上層階に住むといった賃貸併用住宅が増加しているのです。住宅メーカーとしては、多層化することで、受注単価の引き上げを図ることができるため、いまや多層階が住宅市場の主戦場となりつつあります。

 たとえば、積水ハウスの決算資料によると、戸建注文住宅の1棟当たりの単価は3741万円ですが、3階建ては6600万円で、賃貸住宅は8305万円で、3・4階建て賃貸住宅は1億3900万円と桁が一桁大きくなります。

大手ゼネコンも町場の工務店も入れない

 これが5~6階建てになれば2~3億円と上がる可能性があるだけに、メーカーにとってはたいへん魅力的な市場です。しかも、この分野は中小のゼネコンが中心になっています。大手のゼネコンは2~3億円規模では利益を確保できません。といって、町場の工務店では技術的にも資金的にも手が届きません。競争相手は地場の中小ゼネコンですが、そこが相手であれば、大手住宅メーカーの技術力やネームバリューで凌駕できる可能性があります。

 そのため、いま大手住宅メーカーが一斉にこの分野への参入を急いでいます。あるメーカーの担当者は、「メインプレーヤーのいない分野。いま参入すれば先行者利益を確保でき、10年後、20年後の有望市場でトップシェアを確保できる」としています。

大都市部の住宅展示場では多層階が主役

 実際、最近の住宅展示場ではこの多層階物件が主役となっています。写真1にあるように、昨年オープンした東京都板橋区の「板橋高島平ハウジングステージ」は、すべてのモデルハウスが3階建て以上で、なかには大和ハウス工業のように5階建てもあります。

 この1月に一部のモデルハウスがオープンし、春には全10棟が完成してグランドオープンを迎える「錦糸町住宅公園」(東京都墨田区)も同様で、ヘーベルハウスの旭化成ホームズは5階建てのモデルハウスを建築中です。

 その隣では、パナホームが7階建ての建築を行っています。現在、住宅展示場で最も高いのは、同社が東京都新宿区の「東京都新宿住宅展示場」に有する6階建てですが、完成すれば、こちらが住宅展示場における日本一高いモデルハウスになります。

新築住宅、なぜ3~5階建て激増?「下は貸して、上に居住」が主流にの画像2昨年オープンした東京都板橋区の「板橋高島平ハウジングステージ」

多層階の新商品の開発競争が激化

 この有望市場に、大手メーカーがこぞって新商品を投入していますが、なかでもこの分野にいち早く手を挙げたのがパナホームといっていいでしょう。工業化住宅で6階建て、7階建てまで可能としてきましたが、16年10月には9階建てまで可能な「ビューノ9」を発表、パナソニックグループの創業100年となる18年度にはこの分野での売上高1000億円を目指しています。

 ヘーベルハウスの旭化成ホームズは、「ヘーベルビルズシステム」として、鉄骨造の8階建てまで建築可能な商品を送り出しています。戸建住宅で培ってきたシステムラーメン構造の基幹技術を中高層建築に進化させることで、5階建て、6階建てのトップブランドを目指しているそうです。錦糸町住宅公園の5階建てモデルハウスはその営業戦略の橋頭堡としたい意向。東京オリンピック・パラリンピックの20年度には売上高500億円にしたい計画です。

木造住宅メーカーも多層階や大建築に

 こうした多層階分野では、木造より鉄骨系のほうが有利に思えますが、実際には木造系のメーカーもがんばっています。

 もともと2×6のモノコック構法で耐震性・耐久性などが高く、すでに4階建てまで認可を受けている三井ホームでは、東京の都心部を中心に1階が鉄筋コンクリート造で2階から5階まで2×6の併用住宅を増やしています。間口が数十mから100mに及ぶような大建築の施設建築も行っています。

 戸建注文住宅の先細りが避けられない住宅業界。それに代わる新分野の開拓が欠かせないのですが、この多層階市場がその決め手になるのでしょうか。なるとすれば、どのメーカーが市場をリードしていくのでしょうか。今後の動向が注目されます。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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