金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアで殺害された事件について、これまで沈黙を守ってきた中国メディアが事件から10日以上たってから突如として、大々的に報道するという大きな変化を見せている。その内容は外電を引用するなど事実関係を忠実に伝えながらも、その実行犯は北朝鮮当局であることを強く示唆しており、事実上の金正恩指導部批判となっている。
これは、北朝鮮国営の朝鮮中央通信が23日、中国政府の北朝鮮産石炭禁輸措置について、「アメリカに踊らされて、敵対勢力とともに朝鮮の制度を破壊しようとする陰謀と同じだ」などと中国の決定を激しく批判する記事を配信したためとみられる。すでに、北朝鮮当局は中朝国境の北朝鮮企業や朝鮮人民軍に対して、「中国との破局は決定的だ」などとする党中央宣伝部の重要講話の学習会を頻繁に開いており、中朝両国の関係決裂は決定的な状態を迎えているようだ。
中国国営の中国中央テレビ(CCTV)は事件発生から11日後の2月24日午前7時からのニュース番組『朝聞天下』で、金正男氏殺害の事件を取り上げ、マレーシア警察の記者会見や韓国政府や韓国市民らの反応のほか、同テレビの平壌特派員の現地リポートも含めて、計10分報じた。番組の放送時間は30分なので、全体の3分の1と重要ニュース並みの扱いだ。
特に、平壌特派員のリポートでは北朝鮮の朝鮮中央通信が前日、今回の事件に韓国が関与していると主張したことを伝える一方で、韓国政府が事件の背後に北朝鮮政権がいると指摘していることを紹介している。
ただ、死亡した人物については「金姓の北朝鮮男性」として、「金正男」氏の名前は伝えていない。しかし、この事件について報じた中国紙「新京報」(電子版)は名前を出していないものの、金正男氏の生前の写真をホームページ上に堂々と掲載しており、写真をみれば、死亡した「金姓の北朝鮮男性」が金正男氏であることは一目瞭然だ。「頭隠して尻隠さず」の類の報道で、極めて政治的な意図が隠された報道であることは明らかだ。
中朝国境地帯の部隊を増派か
中国当局は事件発生から2日後の15日、事件について報じた国内メディアの記事の削除を指示するなど、厳しい報道管制を敷いていた。ところが、24日のCCTVの放送で事実上の報道解禁にしたのは、23日に朝鮮中央通信が激しい中国批判を展開したことが原因であることは間違いない。