この記事は『汚らわしい処置、幼稚な計算法』との見出しで、「法律的根拠もない国連の『制裁決議』を口実にして人民の生活向上に関連する対外貿易も完全に遮断する非人道的な措置もためらわずに講じている」と中国を批判している一方で、「幾ばくかの金銭を遮断するからといって、われわれが核兵器を作れず、大陸間弾道ロケットを作れないと考えること自体がこの上なく幼稚である」などとして、石炭禁輸などの経済制裁は北朝鮮の核開発に影響を与えないと述べて、今後も核実験やミサイル発射実験を継続することを明らかにしているからだ。
これらの報道について、香港メディアは中国人民解放軍が中朝国境地帯の部隊を増派し、24時間態勢で監視を続けるなど有事即応体制をとっていると報じている。これについて、中国国防省スポークスマンは「根拠のない報道」と否定しているが、軍当局が軍事的な動きを明らかにすることは稀なだけに、この発表を言葉通りに受け取る向きは少ない。
中朝関係断絶も現実味
金正男氏殺害事件以降、中朝関係が極度に緊張しているのは北朝鮮側の動きをみれば明らかだ。対北朝鮮ネットメディア「デイリーNK」によると、朝鮮労働党中央宣伝部が中朝国境にある100人以上の従業員を擁する企業や工場、あるいは国境警備隊の軍部隊に対して、「朝中(北朝鮮‐中国)関係の破局を準備せよ」という重要講話の学習会を頻繁に開催しているという。
その内容は「朝中関係が最悪で、破局を準備しろという言葉まで出て、今後中国を見ることも信じることもダメ」とか、「中国との関係は以前より良くなりはしないため、今後は中国を牽制しなければならない」などというもので、暗に中朝関係断絶も現実味を帯びていることをうかがわせている。
朝鮮人民軍内部でも同じような内容の学習会が行われており、特に国境警備隊では新たに軍内に不穏な動きはないかを警戒する「監視組」が組織されるという異常事態が出来している。
これは金正恩指導部が、金正男氏殺害事件の情報が北朝鮮国内で拡散することに強い危機感を抱いていることを示している。事件の真相究明は今後もなされていくことになろうが、金正恩委員長がかりに兄である金正男氏の殺害を命令したことが事実だとわかれば、北朝鮮の価値観、道徳の根幹を形成している儒教に反していることになり、国内に動揺が広がり、体制崩壊のきっかけにもなりかねないからだ。
ただでさえ、経済不振で、国民は生活の窮乏にあえいでいるという不満が増幅され、金ファミリーがかつてのルーマニアのチャウシェスク一族、あるいは民衆に撲殺されたリビアの最高指導者、カダフィ大佐の二の舞になりかねないと金委員長が真剣に恐れているとしても不思議ではないだろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)