「私、失敗しないので」という米倉涼子の決めセリフで人気の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)や、吉田羊の主演で注目された『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』(フジテレビ系)など、昨年は女性医師が主人公のテレビドラマが話題になった。
いずれも、スーパーな技術を持つ女医が活躍する痛快なストーリーが視聴者のカタルシスをかき立てて人気を得たようだ。とはいえ、多くの人が「これはあくまでフィクション」と思っているだろう。
しかし、アメリカでは昨年末、「女性医師(内科医)に担当してもらった入院患者のほうが、男性医師が診る患者よりも死亡率・再入院率が低い」という研究結果が発表された。「女性医師に診てもらうほうが高確率で命拾いできる」という初めての知見は、多くのメディアがこぞって取り上げる騒ぎとなった。
女性医師の患者の方が生存率も予後も良い
この研究を行ったのは、米ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)の津川友介氏らのグループ。2011~14年に心疾患、肺炎、腎不全などの急性疾患で入院したメディケア(アメリカの公的保険)に加入する65歳以上の高齢者の記録を解析したもので、患者数はおよそ130万人だった。
この間5万8300人を超える一般内科医が1人以上の患者を治療しており、医師の3分の1が女性医師だ。
その結果、女性内科医の治療を受けた患者の30日以内の死亡率は11.1%、男性内科医では11.5%。死亡率だけではない。女性医師の治療を受けた患者は、その後30日以内の再入院率が15%強だったのに対し、男性医師の場合は15.6%だった。
全体として女性医師は男性医師よりも年齢が若く、大病院や大学医療センターに勤務する傾向が高かったほか、診察する患者の平均数が少なかったが、このような差を考慮しても、女性医師の患者のほうが良好な結果がみられることに変わりはなかった。
さらに「女性医師が軽症の患者を担当している可能性も否定できない」と考えた研究チームは、「ホスピタリスト」(病院総合医)に限定したデータも分析した。ホスピタリストは勤務シフトの時間帯に入院してきた患者を必要に応じて担当するため、重症・軽症の差を除外して女性医師と男性医師を比較できる。
その結果、対象をホスピタリストに限定した場合でも、女性医師が担当した患者の30日以内の死亡率は10.8%、男性医師では11.2%、再入院率は女性医師14.6%、男性医師15.1%となり、こちらも統計学的に有意に女性医師のほうが低かったのだ。
すべてが女性医師だと年間3万2000人の命を救える
死亡率の差0.4%はわずかに思えるかもしれない。しかし、研究者のひとりは「仮に男性医師が女性医師並みの医療を提供すれば、理論上は米国全体で年間3万2000人の命を救える」と述べている。これはアメリカの自動車事故による年間死亡者数にも匹敵するという。
今回の研究は内科医にのみに着目しており、外科手術を要する患者やがん患者などは対象外であったとしても注目すべき結果だ。
なぜそうした差が生まれるのかについては、今回の研究では明らかにされていないが、過去の研究では、女性医師は男性に比べて「臨床ガイドラインの順守率が高い」こと、そして「患者と明確なコミュニケーションを取る傾向がある」ことなどが示されている。
「このような差から、今回の結果を説明できる可能性がある」と、ハーバード大学公衆衛生学部教授のAshish Jha氏は分析する。
付随論説を執筆した米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のAnna Parks氏は、今回の知見は「女性医師の治療の質が男性医師に劣るとする、一部の考えを否定するものだ」と指摘。Jha氏もこれに同意している。
女性医師の能力を活かす環境が急務?
「主治医が女医さんだけど大丈夫かな?」といった固定観念はナンセンス。この結果を知ったなら、むしろ積極的に「女医さんにかかりたい」と思う患者も増えるだろう。
しかし、「優秀な」女性医師であっても、地位が高いとはいえない。アメリカでは医科系大学の卒業生の半分以上を女性が占めているにもかかわらず、女性医師は全医師の3分の1でしかない。
公的な医療機関で働く男性医師と女性医師との間では、平均8%以上の年収格差があるといわれる。
日本においても多くの女性医師が、結婚や出産・育児などのライフイベントのために働くことをあきらめ、キャリアの中断を余儀なくされている。女性医師の就業率は一般女性と同じように年齢に合わせて「Mカーブ」をたどり、最も低い35歳ごろの就業率は76%ほどだ。
さらに、男性医師の96%がフルタイムで働くのに対し、フルタイム勤務の女性医師は7割弱。あとはパートないし休職中などだ(全国私立医科大学合同調査)。
日本での女性医師の割合は年々増加しており、平成24年の時点で女性医師は全医師の19.7%を占める(日本医師会)。このまま順調に増えていけば、3人に1人が女性医師という時代はそう遠くない。
なかでも医師不足が問題になっている産婦人科や小児科では、20代の女性医師の割合が半数以上を占める。こうした分野の医療を維持し続けるには、女性医師が働くための環境整備が待ったなしの状況なのだ。
今回の研究結果が注目されることが、女性医師の地位向上という側面にも生かされることを望みたい。
(文=ヘルスプレス編集部)