マイナス価格での空き家の売却
空き家増加が社会問題となり、所有者の責任が厳しく問われている。住宅を取得した時点では、それが将来にわたって資産となるはずであった。しかし、空き家を相続しても使い道がなければ、固定資産税などの税負担だけでなく、崩れ落ちて通行人がけがをした場合の賠償責任まで負う必要がある。空き家が崩れ落ち、通りがかりの11歳の男の子が死亡したケースでは、所有者は5,630万円の賠償責任を負うとの試算もある(日本住宅総合センター「空き家発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」<13年5月>)。
最近、筆者が訪れた北海道のある市では、売り手が買い手に100万円支払い、ようやく売却できた例を耳にした。マイナス価格での売却であり、「不動産」が「負動産」と化してしまったケースである。それでもまだ、買い手がついただけましともいえる。売却した人は100万円の追加負担は要したが、その後の税負担や管理責任からは完全に逃れることができたことになる。
空き家を持っていても、所有者としての責任を問われるばかりで、最終的に売るに売れない状況になるのなら、そもそも所有することに意味があったのかとの考え方も成り立つ。実際、そのような意見も現地で聞いた。
しかし今までは、購入しなければ満足できる広さと質の住宅には住むことが難しかった。賃貸物件は狭い物件が主流で、手頃な価格で借りられるファミリー向けの物件は、日本の賃貸市場では極めて少なかった。
優良住宅を定期利用するという考え方
これに対し最近、住宅供給で所有と利用を分離する新たな試みが現れた。住宅利用者は、子育て期など広い住宅が必要な期間のみ、土地と建物の躯体(スケルトン)を賃借して使う。期間終了後は高齢者向け住宅などに移り、土地とスケルトンは新たな利用者に回す仕組みである。スケルトンは長持ちする構造とし、利用者は利用期間中、内装(インフィル)を自由に変更できる。土地とスケルトンは特定目的会社(SPC)が所有し、賃貸して開発費用を回収する。常陽銀行がつくば市、大手ハウスメーカーとともに協議会を立ち上げ(「マイホームリース推進協議会」)、今年度から試みている(国土交通省「2016年度良質住宅ストック形成のための市場環境整備促進事業」のひとつに選定)。