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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

「高コレステロール=体に毒」の定説崩れる…高齢者では心臓病死亡率と無関係

文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士
「高コレステロール=体に毒」の定説崩れる…高齢者では心臓病死亡率と無関係の画像1「Thinkstock」より

 前回触れたカロリー制限の科学論争も関心どころであるが、脂肪制限、とくにコレステロール摂取制限もまた負けず劣らず注目を集めている健康情報である。通販サイトではコレステロールや中性脂肪を下げるサプリメントが売上を大きく伸ばしていると聞く。

 そこで今回は、コレステロール摂取制限が本当に健康リスクを総合的に回避するのに有益なのかしっかり検証してみようと思う。

 メタボリックシンドローム対策の標的疾患である心臓病などを引き起こす原因(リスクファクター)を探索するため、世界中で行われてきた疫学研究の多くは、35~60歳頃のミドルエイジを中心とした集団を対象に追跡調査している。

 これらの研究は、ミドルエイジのリスクファクターを特定するのには確かに適している。しかし、この成果を引用し、ミドルエイジの集団で特定できたリスクファクターがいずれの年齢層でも同程度に寄与するとみなし、健康施策が設計立案されてきたのが我が国の現状である。

 よくよく考えてみれば、ミドルエイジで大きく寄与するリスクファクターがシニアエイジでも同程度に寄与するとは限らない。シニアエイジの集団でも同じような関係が成り立つのか確かめなければならない。幅広いライフステージでより精緻にリスクファクターの寄与度を検証するのが、科学的良心というものである。とかく悪者扱いされる血中コレステロールと心臓病リスクの関係を例に挙げ、ミドルとシニアのリスクファクターの寄与度の違いについて検証してみよう。

年齢ごとの心臓病死亡率の変動

 米国のボストン郊外にフラミンガムという地域がある。この地域住民を対象とした長期にわたる疫学研究の成果は、循環器疾患のリスクファクターを見極めるのにきわめて重要な情報を世界中に提供し続けている。

 その一連の研究のなかで30年余りの年月を費やし、血液中の総コレステロールが1mg/dL上昇するごとに心臓病の死亡率がどの程度変動するのか明らかにした論文がある(Kronmal RA, et al. Arch Intern Med, 1993 153,1065-1073)。この研究の分析の特徴は、調査開始時の年齢を細かく区分して、それぞれ年齢ごとに心臓病死亡率の変動を比較している点である。

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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