北朝鮮は5月29日、今年だけで9度目になる弾道ミサイル発射を行った。すでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、実戦配備に向けて大量生産を指示している。そもそも、北朝鮮がミサイル発射を続ける目的はどこにあるのだろうか。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に聞いた。
「5月8~9日、ノルウェーのオスロで、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と、アメリカの元国連大使ピカリング氏が会談しました。非公式接触と報じられている通り、米朝交渉に向けて、お互いにどのくらい譲れるかなと腹の探り合いをしているわけです。崔局長は13日に帰国している。その日から、平壌から120km北の亀城(クソン)にある飛行場にミサイルを引っ張り出して、発射準備して14日に撃ちました。あれは、明らかにアメリカに見せるために、偵察衛星で撮影できるように図っていました。
この14日に発射された火星12号は、1段です、長さは15mくらい。北朝鮮は火星13号を持っており、これはICBM(大陸間弾道ミサイル)だといわれています。それが本当にできているかどうか。パレードに出たのは実大模型で、開発途上だろうというのが一般的な見方でしたが、火星12号が1段のミサイルで2000km以上上がって、30分飛んでいる。ロシアとアメリカの間のICBM飛行時間が約30分。1段で30分飛ぶので、2~3段にすればICBMができてもおかしくない。すでにICBMをつくっているのかもしれないし、必要であればすぐつくれる能力を誇示したとみられます。
北朝鮮としてはその能力を示した上で、「アメリカに届くICBMはつくらない、その代わりに国交を樹立して、経済制裁の緩和や経済協力をしろ」と要求するのではないか。そういう取引材料にするための発射でしょう。それと逆のことも考えられて、オスロで会ってみたものの双方の間に大変な違いがあり、アメリカが武力行使をしかねないと北朝鮮が考えて、アメリカの攻撃を避けるために報復能力があることを示したという見方もあります。おそらくそれよりは、交渉のカードの価値を高めるため、というのが順当な見方でしょう」
トランプはたじろいだ
アメリカは「(オバマ前政権の)戦略的忍耐の時代は終わった」と宣言、トランプ大統領は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」と言い、原子力空母を北朝鮮沖に向かわせ、軍事圧力を強めている。一方でアメリカが北朝鮮との対話を模索しているのは、なぜなのか。