神戸山口組の井上邦雄組長を筆頭に、同団体の組員たちが次々と京都府警に逮捕されている。今年1月に京都の会津小鉄会本部で起きた乱闘事件にかかわったという容疑だ。
この事件は、2つに割れた七代目会津小鉄会が衝突したものである。かたや、神戸山口組が後押しする金子利典会長派。かたや、六代目山口組が後押しする原田昇会長派。これまでは、井上組長や馬場美次・六代目会津小鉄会会長(引退)など、金子会長派の人物が次々と摘発されたが、京都府警は6月21日に、原田会長を始め、六代目山口組大物幹部らを逮捕したのだ。
有印私文書偽造・同行使容疑で逮捕されたのは、原田会長のほかに、六代目山口組の司忍組長を初代とする三代目司興業の森健司組長、六代目山口組の中核組織である三代目弘道会系野内組の野内正博組長、引退を表明していた六代目会津小鉄会幹部だった吉川組の吉川栄大元組長である。
この偽造事件の背景は、当サイトの過去の記事も参考にしてほしいが【参考記事】、今年1月に原田会長らが、六代目の馬場会長の名前を無断で使い、原田会長が七代目に正式に就任したという文書をファクスで関係各所に送ったというものだ。冒頭に掲載した写真はそのファクスである。
だが、この行為が有印私文書偽造・同行使の罪に問えるのかという疑問は、原田会長が同容疑で逮捕されるという噂が立って以降、根強く囁かれてきたし、筆者の感覚でもそうだった。だが、逮捕後に漏れ伝わってきた話を総合すると、合点がいくようになっていったのだ。
確かに、ヤクザ組織の代目継承を報告する文書を、当代(今回は六代目の馬場会長)の名前を無断で使用して作成し、関係するヤクザ組織に流したことを罪に問うことには、関係者の多くが違和感を持った。ファクスが流された直後に馬場会長自身が否定し原田会長を絶縁したこともあり、この文書を本当に信じた者はいなかったとも思える。だがその文書が原因で傷害事件まで起これば、話は別ではないか。
「あのファクスを1月10日に六代目山口組サイドに流したことが原因で、対立する馬場・金子派が神戸山口組組員の協力を得て、会津小鉄会本部で原田派を相手にした乱闘を起こしている。おかげで機動隊まで出て、地域住民を不安にさせ、近くの小学校では集団登下校が行われた。保護者が付き添う場面もあったほどだ。そこを重く見たのではないか」
地元関係者はこのように話しているのだが、それを物語る映像が当時、メディアで報じられ、全国に知れ渡ることになった。京都府警は、そうした社会への影響度に着目し、今回の逮捕につなげたのではないだろうか。すでに金子会長派である複数の神戸山口組関係者がこの傷害事件で逮捕されているが、直接的な原因をつくったとされる原田会長派がお咎めなしとはいかなったわけだ。
四代目山健組の若頭も指名手配に
原田会長らが京都府警に逮捕された同日、神戸山口組は神戸市中央区二宮の新事務所で執行部会を開いている。そこには“もうひとりの七代目会津小鉄会のトップ”である金子会長が姿を現していた。また、関西の名門博徒組織の九代目酒梅組の吉村光男組長も姿を見せている。吉村組長と、神戸山口組の井上組長は兄弟分という間柄であることから、激励を込めた陣中見舞いではないかと言われているようだ。
現在の神戸山口組は、こうした外部の親分たちとも強固な絆を確認することが重要になるほど、内部は揺れているのではないだろうか。会津小鉄会の乱闘事件に関係し、井上組長ほか計13人が逮捕され、さらに神戸山口組の中核団体である四代目山健組最高幹部、中田浩司若頭が京都府警に指名手配された。逮捕者はまだ増える見通しだ。
京都府警が、ここまで会津小鉄会関連事件に力を注いで捜査にあたっている以上、次々に繰り広げられる逮捕劇が形だけで終わるとは考えにくい。多額の捜査費用を掛けながら、検察が起訴に持っていけないような摘発をし続けていたとなれば、京都府警の威信にかかわる。前述の通り、捜査のメスは六代目山口組サイドにも入り出した。
4月末、任俠団体山口組が誕生し、山口組は3つに割れ、抗争激化なども懸念された。だが現在のところは、警察当局の逮捕劇が各勢力に対しての抑止力となっているのは間違いないだろう。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。