九州福岡県の最南端に位置する大牟田市。そこを拠点に活動しているのが、浪川政浩会長率いる浪川会だ。10月19日、その浪川会を訪れた男が、応対に出た浪川会系幹部組員ともみ合いになった挙句に、銃弾を2発発砲するという事件が起こった。
筆者の経験からいってもヤクザ事務所は、インターフォンが鳴らされたからといって、すぐにドアを開けて対応に出るようなことはまずしない。誰がどういった理由で尋ねてくるかわからないからだ。だが今回、対応にあたった幹部組員は男を招き入れようと本部事務所のドアを開け、その後、拳銃を持っていることがわかると、男ともみ合いになり発砲されている。幹部はなぜドアを開けたのか。取材に応じてくれた、ある関係者はこのように話している。
「男は、『◯◯さんからの伝言を伝えにきた』とインターフォン越しに言ってきたらしい。その◯◯という男は、浪川会の前身組織である誠道会が関わった抗争事件で、無期懲役の判決を受け、現在、服役中の人物だった」
そこに油断があったかもしれない。だが応対に出た幹部はすぐさま男を取り押さえ、その間に放たれた銃弾が右足の指に当たるという軽傷を負っている。
「弾かれた幹部は、交代のために当番へと訪れたばかりであった。二次団体の最高幹部なのだが、二次団体組長の実子分になるほどの人物だから、肚が座っている」(同)
容疑者の男は、福岡県に本部を置く、武闘派として名高い独立団体に所属していた経歴を持つことから、もしや抗争事件に発展するのかと一瞬緊張が走ったが、地元関係者はそれを完全否定している。
「発砲した男は、とうの昔に所属していた独立系団体から処分されている。今回、浪川会に押し入った動機は本人しかわからないが、組織的関与は考えづらい」(同)
福岡では、今回の事件に関係している組織とは異なるが、今年8月に福岡市内で発砲事件が起きており、市民の不安感は増している。今回の事件が抗争に発展しないことはなによりだが、当局による動機解明が待たれるところだ。
警察による大量検挙が継続
大牟田市で銃声が轟いた頃、任侠山口組の執行部から傘下組員へある通達が出された。それは、10月23日に迫った織田絆誠代表の誕生日の祝いを禁じるものだったという。
任侠山口組では発足当時から、誕生日祝いだけに限らず、お歳暮やお中元などの名目で臨時徴収することを禁じている。今回、この通達が再度出された理由をヤクザ事情に詳しい新聞記者は、こう分析する。
「あらためて臨時徴収を禁じる通知を出した理由は、任侠山口組結成後初めての織田代表の誕生日を迎えるためというのもあったのではないでしょうか。また、9月に起こった織田代表襲撃事件で犠牲となった組員の喪があけていないという意思の表れでもあると思われます」
こういった声がある一方で、任侠山口組からたびたび出される通達を冷ややかに見ている関係者もいるという。
「文面には、『他団体で頻繁に行われている出物(臨時徴収)を一切厳禁』などと他団体のことを取り上げ、わざわざ否定するような文言が入っていると聞く。組織によって運営方法が違うのは当たり前の話で、それを“ウチはヨソとは違う”なんていう必要が本当にあるか。通知や通達で雄弁に語る、任侠山口組の姿勢を冷ややかに見ている業界関係者も少なくないようだ」(業界関係者)
そして神戸山口組からは、断固たる意思表示がされた。先日、任侠山口組へと加入した元神戸山口組奥浦組元幹部に対して、絶縁状が出されたのだ。
「絶縁」とは、組織への復帰の可能性が残る「破門」とは異なり、事実上、復帰の可能性を否定する厳しい処分だ。今後、任侠山口組に移籍した人間に対しては、確固たる処分を行なっていくとする、神戸山口組の強い意思の表れともとれる。
また警察当局の動きも活発化してきている。詳細は次回に譲るが、10月22日には三代目弘道会竹内照明会長を再々逮捕したかと思うと、弘道会最高幹部らを次々に逮捕したのだ。さらに、神戸山口組幹部まで逮捕している。筆者の記憶では、ここまで集中的に、有力団体の幹部たちを逮捕した暴力団取り締まり強化月間はなかった。当局のこうした厳しい姿勢は、3つに分かれた山口組の今後を左右するだろう。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新小説『忘れな草』が発売中。