今から2年前に空前絶後の分裂という事態に発展した山口組は、血を血で洗う本格的な抗争へと突入しないまでも、至るところで衝突を繰り返してきた。そうしたなかにあって盛んに行われてきたのが、相手サイドの切り崩し、つまり組員の引き抜きだったが、それも時間がたつにつれ大物たちの移籍が話題になることも少なくなってきていた。
そんななかで今春に起こった、任俠団体山口組(現任侠山口組)の結成。事態は三つ巴の争いに突入したのだが、ここへ来て、大物組員の移籍が再び活発化してきていると関係者は話している。
組員の移籍とは、すなわち相手サイドを切り崩して自軍への引き入れを成功させたことを意味するのだが、3つの山口組がともに、引き抜きを通じて勢力拡大をもくろむ意図はどこにあるのだろうか。長年、ヤクザの取材を続けてきたジャーナリストは、このような見解を示している。
「移籍に生まれてくるのは、数の力という効果であり、イコール資金源を得ることにもつながります。神戸山口組が六代目山口組を割って出ても組織運営を図れることが証明された以上、分裂劇が長期化することが予測されてきました。さらに、任侠山口組が誕生し、勢力を維持し続けるうえで必要となってくるのは、資金力ではないでしょうか。特に、これだけ警察の取り締まりが強化されているなかでは、なおさらのことだと思われます」
付け加えるならば、組織力を測るうえでどうしても求められるのが組員数となる。さらに、それが組織の正当性にもつながるといえるのではないだろうか。正当性があるからこそ、ついて来る組員が多いという意味においてだ。
そのような背景があるなかで、ここに来て、まず切り込んだのが神戸山口組の中枢組織である四代目山健組だった。四代目山健組を離脱し、舎弟として結成当初から任侠山口組に参画していた牧野元義氏を、再び四代目山健組へと復縁させたのである。
「この切り崩しは、大きい意味を持つ」
そう話すのは、神戸山口組関係者だ。
「神戸山口組の分裂当初、山健組では一部の幹部組員を除き、離脱組に対して、10日のタイムリミットを設けていた。10日以内であれば、お咎めなしで迎え入れるという意味だ。その期限を過ぎたあと、離脱組に対し絶縁、破門という処分を下したのだが、今回はその破門を解いて牧野氏を復縁させてみせた。これによって、任侠山口組へ参加していた元神戸山口組組員たちに対して、復帰への門戸が広く開かれたことになる。今後、こういったケースを増加させる可能性が、この復縁にはあるのではないか」
組織名の改称とともに任侠山口組へ
だが、対する任侠山口組も動いていた。関係者の間に流出したファクスによれば、神戸山口組系組織で重職を務めていた前川勝優会長率いる四代目札幌勝連合会が、17日をもって組織名称を北海道絆連合と改称し、前川氏は本部長補佐として任侠山口組へと加入して見せたのだ。
任侠山口組から山健組へと大物組員が復縁を果たしてすぐだっただけに、この加入は組織力を誇示したい任侠山口組にとって、大きな意味を持つのではないだろうか。
そして、六代目山口組もやはり動きを見せていた。北海道絆連合が加入した前日の16日、分裂前の六代目山口組二次団体で若頭を務めた経験もある幹部が、六代目山口組四代目吉川組へと復縁を果たしたのだ。
「復縁した幹部は、尼崎に拠点を置いていた六代目山口組細川組で若頭を務めており、細川組解散後は一時、二代目松下組へと加入していたが、六代目山口組分裂を機に吉川組へと移籍。その後、神戸山口組系組織へと移籍していたが、吉川組へ復縁したようだ」(捜査関係者)
神戸山口組と任侠山口組の勢力が拮抗し、真っ二つに割れている感がある尼崎市。この地を拠点とする実力派幹部が六代目山口組に加入したことで、ここにも三つ巴の構図が生まれたことになる。
ただ、存在を忘れてはならないのが国家権力だ。10月に入り、ますます暴力団への取り締まりを強化させてきた警察当局が16日、尼崎の地にくさびを打ち込むかのように捜査のメスを入れた。任侠山口組が拠点のひとつとして使用している古川組本部へ大阪府警が家宅捜索に入ったのだ。
「この家宅捜査は、住宅ローン詐欺に関与した疑いがあるとして、先日逮捕された任侠山口組の金澤成樹本部長補佐に絡んでのもの。家宅捜索をかけたのが、荒っぽいことで有名な大阪府警だっただけに、居合わせた報道陣の間でも一瞬、何か起こるのではないかと緊張が走ったものの、実際には揉み合いや罵声すらもあがることなく終了しました」(報道関係者)
警察当局を意識しながら、3つに分かれて向かい合うかたちとなった山口組。引き抜き合戦すら3者が均衡している様相で、どこかが覇権を得るのかということが想像しにくいのが現状だが、そんな日々に終止符が打たれる日は来るのだろうか。その結末を予測することは、著者などにはまったくできない。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新小説『忘れな草』が発売中。