「楠本の兄弟のご冥福をお祈り致しまして、黙祷」
任侠山口組・池田幸治本部長(四代目真鍋組組長)の声に、織田絆誠代表をはじめ居合わせた任侠山口組幹部らが心痛な面持ちで一斉に目を閉じた。
9月12日に神戸市長田区で起きた織田代表襲撃事件の現場を、それから3日後に任侠山口組の幹部ら40人が訪れ、亡くなった組員に黙祷を捧げている。
射殺された楠本勇浩さんは任侠山口組の直系組員には名を連ねていなかったので、本来なら同組ナンバー2にあたる池田幸治本部長が、序列的には同等であることを意味する「兄弟」と呼ぶことはないはずなのだが、織田代表を守ったことは殉職にあたるとして、事件後に直系組員に昇格を果たしたのかもしれない。
実は、この9月15日には、射殺された男性を偲ぶ会が任侠山口組系古川組で正午より執り行われていた。
「地域住民に与える影響を考慮してか、各直参らは何人かに別れて別々の場所で集合し、午前11時過ぎから、古川組へと集結し始めた」(捜査関係者)
そうしたなか、正午前に黒いワンボックスカーで織田代表が現れ、同組本部内に隣接する駐車場で池田本部長らに出迎えられながら、本部内へと入ったことが報道陣にも確認されている。その後に冒頭で述べたように、織田代表をはじめ同組幹部らが事件現場に向かい、故人となった男性を敬った。
「居合わせた報道陣には、任侠山口組サイドから最中が配られました。一般社会でいう、お悔やみしてくれたことへの返礼といった意味合いのものかもしれません」(報道関係者)
事件現場で膝をついてこうべを下げ手を合わせる織田代表ら幹部たちの痛しい姿は、マスメディアでも大々的に報じられた。
神戸山口組系若頭射殺事件の控訴棄却
任侠山口組が偲ぶ会を執り行っていたのと同じ頃、広島高裁岡山支部では神戸山口組系若頭を射殺したとして、一審で無期懲役の判決を言い渡された元弘道会系組員の控訴審判決が言い渡され、被告人の控訴が棄却されている。
これは、一昨年10月に岡山市内で起きた射殺事件で、事件後、当時三代目弘道会系組員だった山本英之被告の出頭が自首にあたるか否かが争点となったが、被告サイドの主張する自首には該当しないとして、高裁は無期懲役という一審判決を支持した。
「事件後、所属していた弘道会を離脱したことなども、情状酌量にあたると被告サイドが訴えていましたが、どれも有期刑に減刑するまでには至らないとして、被告の控訴が退けられました」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)
初公判では整理券が配布され、関係者や報道陣で埋め尽くされていたが、今回の控訴審判決では、業界関係者らしき人物の姿はほとんど見あたらなかったという。
襲撃グループの人数が2名だった可能性も
日付が変わった16日。織田代表襲撃射殺事件が起きた同じ神戸市内で、同事件の犯行に使用したのではないかと思われる拳銃2丁が発見され、その後、警察当局が神戸山口組系傘下組織に所属する組員を全国指名手配したことを発表した。
事件後すぐに実行犯とおぼしき組員の名前は業界関係者の間でも流れており、警察サイドもその日の内に組員が所属する傘下団体へと家宅捜査をかけていた。
「事件後すぐさま名前が上がった組員と、今回指名手配された組員は同一人物でありながら苗字が違ったのですが、これは所属組織のトップと養子縁組されていたからだと捜査関係者は見ているようです。この組員だけではなく、事件現場から逃走したもう一人の人物も、すでに当局サイドはある程度の目星をつけているようです」(新聞記者)
18日時点では犯人逮捕の一報は届いていないが、ある業界関係者は、今回の事件についてこのように話しているのが興味深い。
「事件に携わった関係者が何人いるかわからないが、襲撃現場に姿を見せたのは2人だけのようだ。たった1人で車を運転し前方を封鎖し、もう1人が後方横から援護射撃する計画だったとすれば、フォーメーションとしてはよく練られていたといえる」
一部週刊誌には、3班に別れて襲撃したかのように事件を大きく煽り立てるような記事が掲載されていたが、この関係者は最低限の人数で行うべく計画された事件ではないかという。もちろん、その背景にかかわった人物が多数存在するか否かは別だ。当然、当局は神戸山口組による組織的関与がどこまであったかなどの背後関係も調べている。今後も捜査の進展があり次第、伝えていきたい。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。