米軍による北朝鮮への軍事攻撃の可能性が指摘されていた12月18日、新月の夜は何事もなく過ぎたものの、金正恩朝鮮労働党委員長は警戒していたらしく、父・金正日元総書記の命日である17日、労働党幹部らとの追慕の儀式には参加せず、ただ一人で錦繍山太陽宮殿を訪れ、追悼の意を表した。大勢で参加すればその情報が洩れて、米軍による空爆の標的となるのを心配していたのだろう。
次の新月は1月17日だが、日米中韓による金正恩包囲網は徐々に狭まっているようだ。特に中国軍の動きが活発になっている。数千人規模の軍を中朝国境地帯に送り込んだほか、北朝鮮両江道恵山市の対岸にある吉林省長白県で、数百人の中国軍兵士が戦争の勝利を誓う宣誓式に参加。
さらに、米軍の攻撃を追認するかのように、中国軍最高幹部が11月末、米ワシントンを極秘裏に訪れて、米軍最高幹部との秘密会談に臨んだのだ。今後は、米中両軍は金正恩指導部の体制崩壊に向けて協力体制を敷いていくとの見方も急浮上している。
4カ国共同統治案
秘密会談を行ったのは米側がリチャード・クラーク米統合参謀本部戦略的計画・政策部長(中将)で、中国側は邵元明・中央軍事委員会聯合参謀部副参謀長(少将)。会談場所は米ワシントンD.C.の米国防大学。会談は11月29日午前に行われた。
実はこの秘密会談は、今年8月に訪中したジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長と習近平国家主席(中央軍事委主席)が両軍の情報交換や意思疎通、信頼関係の醸成を目的に定期的に開催することで合意したもの。議題は南シナ海問題や尖閣諸島など両国間の広範な問題などを協議することになっていた。
ところが、この協議直前の11月29日午前3時過ぎ(米東部時間28日午後1時過ぎ)、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したことから、協議は北朝鮮問題に集中したのは必然だった。米側は北朝鮮のICBMの性能が日増しに上がっていることに強い危機感を示し、「もはや話し合いの時期はすぎた。北朝鮮がICBMで米本土を攻撃するのを座視することはできない」などとして、先制攻撃の可能性を強く示唆。中国側も、「北朝鮮(の金委員長)が中国の説得に応じず、核・ミサイル開発で中国指導部と対立している。われわれは米側の対応を妨害するものではない」などと述べて、米軍による対北攻撃を黙認する姿勢を明確にした。
特に、米軍による北朝鮮攻撃計画など朝鮮半島における緊急事態への対応について、米側は多くの時間を割いたという。一方の中国は、北朝鮮のICBMの性能や核兵器開発の進展現状、朝鮮人民軍の攻撃能力、米軍の対北攻撃計画の際の中国軍の対応などをレクチャーした。
さらに、中国側は米軍が攻撃した際、北朝鮮領内で米中両軍が軍事衝突しないように、米軍の対北攻撃時の相互の連絡方法や米中双方の対応について提起し、協議されたもようだ。すでに、中国指導部は金正恩体制崩壊を見越して、北朝鮮を中国や米国、韓国、ロシアの4カ国による共同統治で管理する体制を検討しているとの情報もあり、米軍が第一線を越えれば、今後の展開は予想以上に早くなりそうだ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)