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江川紹子の「事件ウオッチ」第96回

【リニア談合】で再び問われる捜査手法…任意捜査でも取り調べの可視化を

文=江川紹子/ジャーナリスト
【リニア談合】で再び問われる捜査手法…任意捜査でも取り調べの可視化をの画像1東京地方検察庁特別捜査部が設置されている中央合同庁舎第6号館(「Wikipedia」より/F.Adler)

 JR東海のリニア中央新幹線建設工事をめぐってゼネコン大手4社が談合をした疑いで、東京地検特捜部が捜査を行っているが、談合を否認し、捜査のやり方に抗議した社には繰り返し強制捜査が行われるなど、その進め方がかなり気がかりだ。

検察に抗議した大成建設への再捜索

 この事件で、同特捜部が強制捜査に乗り出したのは昨年12月8日。大林組が請け負った名古屋市の非常口新設工事の入札で不正があったとして、偽計業務妨害容疑で同社の捜索を行った。その後、事前協議を行い、工区ごとに受注する企業を割り振るなどの受注調整をしていたとして、独占禁止法(不当な取引制限)容疑で、特捜部と公正取引委員会が合同で、同月18日に鹿島建設と清水建設を、翌19日には大成建設と大林組を捜索した。

 当初は、大林組のみが談合を認めていた。しかし、今年1月18日に朝日新聞が「清水、談合認める方針」と報じ、他の報道機関も相次いで「清水建設側も東京地検特捜部と公正取引委員会の任意の聴取に談合を認めた」と伝えた。

 この時期に清水が方針変更したのは、課徴金の減免制度を意識したものだろう。

 談合やカルテルに関与した企業でも、公取委に「自首」すれば、課徴金は減免される。減額率は、「自首」がもっとも早かった社は100%で、2位が50%、3~5位が30%。早くに恭順の意を示せば、巨額が予想される課徴金がゼロ、または半分になるというのは、「自白」へのかなり強いインセンティブになる。本件での申告期限は1月22日だった。この時点で、大林と清水の2社が申告したと報じられている。

 この時期を過ぎても談合を認めていない大成と鹿島の2社は、徹底的に争う方針を固めたということだろう。それを確認したかのように特捜部は2月1日、この2社のみに独禁法違反容疑で2度目の捜索を行った。

 2月4日付産経新聞によれば、2度目の家宅捜索は会社の法務部にまで及ぶ徹底的なものだったという。その翌日、大成の弁護人が捜査のやり方について「抗議書」を特捜部に提出。それによると、特捜部の検事らは大成の役職員を社長室に呼び出して、「ふざけるな」「社長の前でも嘘をつくのか」と怒鳴りつけ、威圧的な態度で供述を迫ったという。「検察のストーリーに沿った自白を強要しようとして圧力を加えている」として、抗議書で特捜部の捜査にやり方を批判した。

 また、特捜部は大成の委嘱弁護士や社内弁護士のパソコン、弁護人が法的アドバイスを提供する目的で作成した大成の役職員に対するヒアリング記録も押収した。これについても抗議書は「大成建設の弁護権、防御権を著しく侵害するものだ」と批判している。

 こうした内容を伝える一部報道機関の記事は、2日の午後にはインターネット上で出回った。すると特捜部は同日の午後7時、大成に対して3度目の捜索を行った。

3度目の捜索に垣間見える、検察側の“意図”

 事件の詳細は、いまだ明らかでない。一般論として、罪を犯した人や組織が、責任を免れようと証拠を隠すことはある。その場合、真相解明のために、捜査機関が同じ場所に複数回捜索を行う必要が生じる場合もあるだろう。

 ただ、3度目の捜索に至る経緯には、検察側の意図が露骨に現れているように思える。加えて弁護人の抗議内容を見るにつけ、果たして東京地検特捜部は、過去の教訓を生かしているのか、かなり心配でならない。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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