中高年になると、体のあちこちに不調が見られるようになる。生活習慣病も気になる年頃だが、最近では「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の危険性も聞かれるようになった。
SASとは、気道の閉塞などが原因となり、睡眠中に何度も呼吸が止まってしまう病気である。いびきや日中の倦怠感といった症状が特徴で、重症化すると高血圧や脳卒中などの合併症を引き起こすこともあるという。
太った中年男性によく見られる病気として注意が促されているが、グッドスリープ・クリニック浜松町の院長で、日本睡眠学会認定医の齋藤恒博氏によれば、「程度に差はあれど、誰でも発症する可能性のある病気」とのこと。
「SASは老眼のようなもので、軽度の症状は多くの人に見られるものです。そのため、自覚症状がない人も少なくありません。
特に発症しやすいのは太った中年男性といわれていますが、性別はあまり関係ありません。また、顎が小さくて後方に偏っている骨格の人は、重篤な睡眠呼吸障害が発現する可能性もあります。
老化や骨格筋障害など、筋力低下に際しても認められ、成長ホルモンの過剰による骨端の拡大でも、よく合併します」(齋藤恒博氏)
代表的な症状として「いびき」が挙げられるが、ひとり暮らしの人は自分で気づきにくい。その場合は、いびきを録音するスマートフォンのアプリなどを活用すると効果的だという。
また、起床時の頭痛や不快感、日中の疲れが取れないなどの症状がみられることもある。こうした疑いを持ったときには、SASを発症している可能性がある。
SASと診断されたらCPAP(シーパップ・経鼻的持続陽圧呼吸療法)という治療を行うのが一般的だ。鼻にマスクを着けて、寝ている間に気道へ空気を送り込むもので、保険が適用される。
完治できず、予防も困難
重症化すると顎や顔面の形成手術が必要になるが、「現在のところ、対症療法しか対策はありません」と齋藤氏は説明する。しかし、重度でなければ特に何もしなくていいという。
「どの治療も完治できるものではなく、予防することも難しい病気です。医師がやっていることは社会的なサポートにすぎません。ケアすることで起床時の頭痛が軽くなったという人もいますが、これらは活動性全般が良くなるためで、とりたててアピールすることでもないと思います。
SASとは、上手に付き合っていくしかありません。“病気”というレッテルを貼られることが当事者にとっては一番の負担になりますので、『治さなくては』と気負わないでほしいですね」
SASは心筋梗塞との因果関係が明確になっていて、うつ病の合併も重要視されている。こうしたケースではもちろん、CPAPなどを用いた治療が必要だが、いびきをかいたり、眠気が取れないといった症状だけを見て「治療しないと危険だ」と思う必要はないという。
「しかし、自分ではなかなか程度がわかりにくいものですから、まずは検査を受けて、現状を知ることが大事です。数値だけを見て『重症だから治療が必要』と決めつける医師もいますが、症状は人それぞれですから、どのようにコントロールしていくか方針を示してくれる医師を選ぶといいと思います」
中高年を襲う病としてクローズアップされがちなSASだが、軽度であれば改善に力を入れるよりも睡眠時間を管理することが大事とのこと。何かと忙しい日々を送る現代人にとっては難しい課題だが、齋藤氏は「忙しくて寝る時間がない状態は、ある種の病気といえるかもしれません」と警告する。健康になるための近道は、規則正しい生活と生活の質の向上にこそあるのかもしれない。
(文=OFFICE-SANGA)
取材協力:グッドスリープ・クリニック
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