ソニー・インタラクティブエンタテインメントから「PlayStation VR(PSVR)」が発売され、「VR(バーチャルリアリティ)元年」と騒がれたのは2016年。しかし、それから2年近くたってもPSVRは盛り上がりに欠け、低迷を続けている。
一方で、VRを取り入れて勢いを増しているのがアミューズメント施設やフィットネスクラブといった業界だ。なぜPSVRは期待外れに終わりつつあり、ゲーム業界以外でVRが盛り上がりを見せているのか。
新型PSVRも不発…ソフト不足でヒット作なし
まず、PSVRをめぐる状況を整理しておこう。PSVRは、家庭用ゲーム機「PlayStation4(PS4)」に接続してVRゲームや映像を楽しむことのできるデバイスだ。「革命的なゲーム体験ができる」という触れ込みで、当初は大きな話題となった。
しかし、5万円近くもする価格に加え、出荷数が少なく常に品薄ということもあって、期待された“爆発的なヒット”には至っていないのが現状だ。
昨年秋には、イヤホン端子の位置が変更されリニューアルした「新型PSVR」が発売されたが、これも起爆剤にはなっていない。品薄感は解消されつつあるが、それは生産ラインが安定してきたからなのか、それとも消費者が興味を失ったためなのか、現時点では判断しづらい状況だという。
PSVRは、なぜいまいち盛り上がらないのだろうか。ゲーム雑誌の編集者・A氏は、その理由を「やはりソフト不足に原因がある」と指摘する。
「PSVR対応ソフトの数は、現在20本強。ムービーが主軸だったりミニゲーム的なものが多かったりする配信専用ソフトは数多くリリースされていますが、それを合わせても約150タイトルほどで、誰もがプレイしたくなるようなヒット作はまだ生まれていません」(A氏)
ソフト不足に陥ってしまう原因のひとつに、VRゲーム作品の制作には非常に手間暇がかかるという事情があるようだ。
「ミニゲーム的なものならまだしも、最先端のグラフィックやゲーム性を盛り込んだVRゲームをつくるには資金も時間も必要です。また、仮に完成させても今の市場状況では投資額を回収できない可能性が高い。こうした事情が、PSVRが盛り上がらない原因でしょう」(同)
VRと相性がいい業界は?
もっとも、「VRで盛り上がっていないのは、口火を切ったPSVRだけ」という見方もある。家庭用ゲーム以外に目を向けると、VRという表現方法を得たことで活性化している業界も多いのだ。
その筆頭は、なんといってもアダルト業界だろう。たとえば、成人向けCGアニメやゲームはVRと相性がよく、同人レベルでも制作が可能なので、かなりの数のVR作品がリリースされているという。
さらに活況を呈しているのは、VRアダルトビデオだ。この分野では月に200本近くの新作が公開され、配信大手の「DMM.R18」には累計2500本以上のVR対応作品がラインアップされている。
「その圧倒的な制作本数がノウハウを蓄積させ、進化のスピードをどんどん加速させているのです」と話すのは、ライターのB氏だ。
「3D撮影や臨場感のあるバイノーラル録音、さらに人物の大きさの比率を最適化する技術的な進化に加え、成人向けビデオ作品では女優がカメラから目を離さず耳元にささやくように語りかけるなど、演出の分野も洗練されている。そのため、企画性と技術がマッチした、より没入感のあるヒット作が続々と生まれています」(B氏)
誰かと一緒に体を動かす「体験型VR」が主流に
アミューズメント業界もVRを積極的に取り入れている。
昨年7月に新宿・歌舞伎町にオープンした「VR ZONE SHINJUKU」では、自転車型のデバイスをこぎながらVR体験ができる「ハネチャリ」、VR内では超高層ビルの綱渡り映像が流れるが、実際は地上数cmの段差を渡っていく「高所恐怖SHOW」など、現実の動きと連動させたコンテンツが揃っている。
全国のアミューズメントスポットやテーマパークでも同様のコンテンツを充実させる動きがあり、今やVRゲームは体験型が主流になりつつある。
カラオケチェーンでは、「カラオケファンタジー」が導入した「Fantasy VR Stage+」が体験型VRにあたる。これはVR内で巨大なライブ会場を再現し、数万人の観客を前に歌っている感覚を味わえるというものだ。
さらに、体の動きと連動したVRを取り入れて活発な展開を見せているのがフィットネスの分野である。
たとえば、寝そべるような姿勢で全身を鍛えることができるVR連動型フィットネスマシン「ICAROS」、サイクル型の「THE TRIP」、ローイングを取り入れた「HOLODIA」など、単調になりがちなトレーニングを楽しくさせる技術としてVRが活用されているのだ。
こうした各業界のVR対応に共通しているのは、「PSVRとはアプローチがまったく異なる」という点だろう。
VRはゴーグルをつけてしまえば完全にひとりの世界になるため、画面に向かってプレイする家庭用ゲームとの親和性が高いと思われていた。ところが、アミューズメント施設やフィットネス業界の対応を見ると、意外にも人が集まる場所で誰かと一緒にプレイするスタイルの体験型VRが多いことがわかる。
「身体的な感覚にVRを掛け合わせるコンテンツが市場の中心になっていけば、家庭用ゲームのデバイスであるPSVRの出番はますます減っていくと思われます」(同)
PSVRの低迷を尻目に盛り上がる、各業界のVRビジネス。ゲームファンの間ではすでに玄人向けのアイテムとなっているPSVRだが、今後はさらにマニアックな存在となり、その役割を早々と終えてしまうかもしれない。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)